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当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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「蕾の薔薇」と「世の歓び」の物語

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朝起きると枕元にはいつも飲む薬が置いてある。
種類はひとつ。
身体はどこもわるくない。むしろ、人間として当然の摂理をとめるための、エゴみたいな薬だ。いのちがこぼれだす、何かを産み落とすことができた身体に、こうして零れ落ちることを強制するなんて、いつか罰が当たるに違いない。まぁ、そうでもなくても、元から地獄行きなんだけれど。




朝、用意された衣服を身につけながら一日のスケジュールを確認する。獄寺くんは手馴れているから、何もしなくても問題ないけれど、今日はパンツスーツ、ともう一着おいてある。ドレス。コレは夜に使うのだろう。

軽く身体を起こす為に、運動をする。のばす・ちぢめる・はねる。そして当たり前のような、銃の重さを確認して、そしてチューニングをする。朝の日課。



「おはようございます」
部下の声だ。外に出て、おはよう・と返す。誰も彼も似たような顔。最近人が増えてきて、覚えるのに一苦労する。あまり覚える気がないだろう、とこの間は嫌味を言われた。自分が覚えていなくなって、優秀な右腕が覚えてるんだからいいじゃないか、と怠惰な自分は、思う。声には出さない。
朝食はたいていだれかとの打ち合わせだったり、小さな子供達と取ったり、一人で取ることはない。
一足先に部屋には、家庭教師が来ていた。


「リボーン」
獄寺に席をはずしてもらい、綱吉は家庭教師兼ヒットマンの名を呼んだ。エスプレッソを飲んでいる姿はいつみても美しい。朝の光が計算されたように前髪にあたって、どこかの美術館の彫刻のようだ。もう家庭教師から卒業してもいいと思うのに。
「今日、夜一緒にいてくれる?」
すっかり美しい彼は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「また汚ねえ仕事ばっかり押し付けやがって」
「うん。良くない予感がする」
「報酬はたっぷり、バケーションもな」
くつくつとリボーンは笑う。
俺は少しだまってから、不快感をあらわにしていることを自覚する。
「だってほかのひとには汚い俺をみてほしくないんだもの」




外は静かだ。
夜のしじまが近い。
「獄寺。替わるぞ」
俺にずっと付いていた獄寺がうなずいた。
「では10代目、また明日」
「じゃぁね」
彼に見送られ、今後はリボーンの運転する車に乗り込む。
中には朝見た、黒のドレスがあった。
「あーあ 憂鬱」
車の後部座席で着替える。
「部下がいなくなったとたんだらしない声だすな、ダメツナ」
背中がすうすうするほど開いているデザイン。美しいものは好きだ。自分にはないものだから。これは確か男から贈られたものだったけれど、星の煌めきを思い起こして気に入っていた。腰にかけてしゅんとラインがしまって、夜の闇が裾に向けて広がるのだ。
箱に入っていた首元を飾る星のようなアクセサリーを掌で弄んでいると
リボーンがミラー越しに見て、あとでなおしてやる、といった。
その目には表情が読めない。





深夜をすぎている。いつもより遅い。
いらいらとしながら銃声の音と同時にリボーンは鍵のかかっていたドアを蹴破った。
「ツナ」
赤の色。ワインレッドのようだ。
彼女は身に何もつけることなく、瞳の中に琥珀色の焔を燃やしていた。表情はまるで死んだ魚のように無表情なのに、瞳の中だけ焔が燃えているアンバランス。
手には銃。
白いからだに血糊がべったりと着いてしまっていた。
身体が下にある状態で撃ったのだろう。腹を下にした男は、同じく何も身につけてはいなかったが、だらしなく力を失った腕が、ベッドサイドから垂れていた。

焔をはらんだ目が、リボーンに焦点をあてる。
亜麻色の髪が白い身体に垂れている。赤いコントラスト。
彼女はとても美しかった。

はあ、と大きな溜息をリボーンはついた。めんどくさがりやって。





綱吉はリボーンが手際よくシャワーを出して、器用にぬれずに自分を洗ってくれているのをぼんやりと見ていた。なんだかトリミングされているみたいだ。犬はこんな気持ちなのだろうか。
「犬ってこんな気分なのかな」
リボーンは綱吉の胸元に鬱血しているのをみつけ、苦々しげにこんなものつけられやがって、と詰った。
「趣味悪いやつだからしょうがない」
「お前はいつもそうしてなんでもあきらめるのが悪い癖だ」
怒気をはらんだ声がしたので、綱吉はすなおに謝った。
「もっと主導権もってやれ」
「今日は疲れてたんだ」
ぶすっとした顔。流れる水はまだ赤い。
「お前の身体は綺麗なままでいないといけないんだ」
綱吉はため息をついた。そんなこといったって、めんどくさいんだから仕方ない。
流されることには自信があるのだ。











きゅ、
コックがひねられた。バスタオルを頭からかぶされ、気付いたときにはドレスをリボーンが持ってきていた。
「それ、着たくない」
「我慢しろ」
下着をつけ、銃も身につけて、そしてドレスを着ようと手に取った。幸いにも裂かれるような無粋ではなかった。
星をあしらったきらめき、サテンよりも光沢の少ない生地、歩くたびに黒の中に色彩が踊る。綺麗で美しいと思って、少し好きだったのに。気に入らなかったので燃やしてしまった。リボーンはくそ!と汚らしいスラングを投げつけると、バタンと扉を閉じてどこかへ行った。何かしら持ってきてくれるだろう、とぼんやりと部屋の中へ戻る。
綱吉は早くこの部屋から出たかったのに。


後処理に人をよこせ、と連絡を取っているリボーンの肩は、いつの間にか少年と呼べるものから青年への階段を上がりつつある。結局家庭教師は素敵なスーツをどこかからか調達してきた。
綱吉は美しいその横顔をじ・っと見つめる。
「・・・オイ、焔をかくせ」
リボーンは見下ろし、言う。
「・・・あれ」
気付かなかった。意識をしないうちに勝手に身体から出て行く焔。しかし抑え方を綱吉は知らなかった。
「・・・」
綱吉は抑えよう、と心してみると、その熱は身体の中へと戻っていく気がするのに。
熱に浮かされ、黒の瞳が浮かび上がったように思えた。
リボーンは少し、切ない顔をした。
きっと自分は物欲しそうな顔をしてるのだろう。また汚らしいスラングで綱吉は罵倒された。こんな子に育てた覚えは無い。

by kanae-r | 2010-01-30 06:23 | Alf Laylah wa Laylah