当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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6 つらつらと 語る言葉も 尽きるとき

 物音ひとつ、しない。
耳が痛くなるような静けさだ。深夜と言うものはまったく音がなくなるらしい。
千秋は先ほど目がさめてから、なんとなく眠れなくなって、明日はオフだったのでまぁべつにいいかと完全に起きてしまった。
パリの街は闇に包まれ、昼間は多くの人が行きかう通りには人の影ひとつ見当たらず、街灯だけがぽつんぽつんと、寂しそうに立っている。
川は深い色で沈みこみ、空には星が無数に光る。今夜は新月、空に明るい光はない。
 彼女は今頃何をしているだろうか。ウィーンにいるのだめのことを思う。最近あまり連絡をとっていなかった。千秋が公演を控えていたのでどうしてもやはり時間がなかった。
今日のことを思い出して、千秋は手を見つめる。すごく楽しい音楽だった。すぅと右手で軌跡を描く。1、2、3、4、1、2、3、4。底辺と高さは均一に、ぶれの少ないように。
ふぅと息をつきてをおろしてしまう。基礎の基礎なんてここのところ全くやっていなかったなぁ、と思った。外を見て、頭の片隅で、彼女も今起きてるような気がした。電話の向こうにいるような気が。
千秋はちょっと空中で手をためらわせて、それでも電話に手を伸ばした。
 トゥルルルルル――
 深夜に音が大きく響いて、千秋は慌てて受話器をとる。周りが起きやしないかと、すこしどきりとした。相手は。
「―――のだめ?」
小さな声で尋ねる。暫くの間ののちに、せんぱい?と驚きと疑問の混ざった声がした。ききなれた、ききたかった声が。
千秋はふ、と顔を崩して笑う。
「・・・・・・すげぇ。シンクロした」
―――せんぱいおきてたんですね
柔らかい声が、笑いを含んで言った。
くつくつ笑って千秋は答える。
―――どうでした?きょうの公演
「うん、すごい気持ちよかった」
―――よかったデスね おつかれさまでした
受話器越しに微笑む気配がした。
「――おまえ、どうしたの」
―――なんか、目が冴えちゃって
「そっか」
―――せんぱいもおきてるような気がしたんデスよ
「・・・・・・・うん」
くつくつ笑うと、向こうもふふ、と笑った。
「元気だったか?」
―――ハイ、ぜんぜん元気いっぱいデス!
「うん よかった」
―――こっちのヒトとも仲良くやってマスよ
「うん」
いつもよりずっとスローテンポで丁寧な会話。彼女の声がいつもよりもずっと近い。
きっとこんなよるで、こんなしずかだから。
会話と会話の間に出来る間も、むしろ心地よいくらいだった。
時間はとてもゆっくり、丁寧に流れてゆく。会えない時間を埋め合わせするように、緻密な時間が流れてゆく。

 どれくらい話していたのか、ようやく会話も一段落したころに。
―――ねぇせんぱい
「ん?」
―――のだめ、もうそろそろパリにかえれそうデス
「ほんとか!?」
―――ハイ、あらかた公演も終わりましたし・・・楽しみにしててくだサイ!
のだめがウィーンに客演として呼ばれてから二ヶ月、公演のための合わせ練習も含め、一人でのだめは頑張っていた。いろいろな団体と演奏できたことはのだめにとって大きな糧となったはず。千秋はゆるゆると息を吐いた。
「うん 楽しみにしてる」
―――ハイ!
のだめの声はうれしそうだ。
 しずかなよる、こんなしずかなよるだからだろう、言い出せなかったことが言えてしまったのはきっと。
「・・・・・・なぁ のだめ」
―――ハイ?
「・・・・・・おまえがウィーンから・・戻ったら・・一緒に暮らそう」
―――・・・・・・
言葉はあっけなく出て行ってしまった。千秋は胸のあたりがすぅすぅした変な気持ちになる。今まで恥ずかしさで言えなかったこと。この決定的な一歩――いままで千秋がどれだけ苦労してきたか――その線は意外にもあっけなく通り過ぎてしまった。
なんとなく体から力が抜けた。
「・・・・・のだめ?」
返事の返ってこない向こうに千秋が問う。
ごにょ、となにかのだめが言ったような気がして、なに?と言った。
―――ほんと、デスか?
ちいさくちいさく言われた声が、涙混じりなことに気づいて。
千秋は優しく答える。
「ほんとうだよ」
すん、と鼻をすするのが聞こえた。
―――せんぱい、大好き
今度こそのだめが涙声で言う。千秋はこくり、と喉を鳴らして、はっきりと答えた。
「・・・・・俺も」

笑い泣きしている電話越しの彼女が、どんな顔をしているのかがなんとなくわかって、思わず優しく笑ってしまう。こんなことが言えるのは、きっとこんなに静かな夜だから。

宵闇は優しく深く、どこまでも続いている。
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by kanae-r | 2005-01-07 23:32 | 言葉で綴る漆題-其の弐>nodame | Comments(0)