当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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キッチン・シンクⅢ

ことばが、
すとん、とこころにおっこちた。


 キッチン・シンクⅢ ―エピローグ―


それはきのうのこと、わたしとかれのことばがさくごしただけのこと、

・・・・・ただそれだけのこと。



「ママ」
そう言ったのは愛しいわが子。
なぁに?
そう返せばニッコリと笑っておちたよ、と楽譜を差し出してくれた。
気持ちのいい五月の風が、開け放された窓から吹き込んでいた。外は新緑、良い天気だ。
気づかなかった、それくらいぼうっとしていたことに気づく。
「ありがとう」
私が座る隣にちょこんと腰掛けて、じいっとこちらをみて、
「弾いて欲しいの?」
「うん」
渡された楽譜は今度やるイベントのための曲だったけれど、
なにがいいの、と尋ねると、お話のやつ!という元気のいい反応。
「もじゃもじゃ?」
「もじゃもじゃ」
舌足らずな声で返答する。
よーしとわたしが腕まくりをするまねをして、組曲の第一楽章、最初の音を出すべく指を滑らせた。

ちらりと隣の小さなたった一人のお客様をみやると、じっくり私の手を見ていたり、ふと視線を見上げてみたり。
♪も も もじゃもじゃ もじゃミちゃーん
私が歌う、この子も歌い始める。
私は頬が緩むのを感じた。

全12楽章、途中でこの子は落ちたり復活したりしながら変ロ長調までついてくる。長いのにね。
私が最後の和音を作ると、小さなお客様はぱちぱちと小さなかわいいもみじの様な手で拍手をする。
弾く、と言って小さな掌を鍵盤の上へ。
ぽろんぽろんと舌足らずな音楽を奏で始める。

たまらなく、愛しい。



++++



ただいま、と千秋が帰ってきた時のだめは子供を寝かしつけていた。
暗い部屋からちょこりと顔を出してお帰りなサイ、と微笑む。千秋も自然と笑む。
それでも、昨日の錯誤が思い出されて、少し微妙な感じ。
台所にはのだめが作ったと思われる料理、オムライス。
残っているチキンライスを少しつまむ。うん上手になっている。
子供が生まれてから真剣に千秋が特訓した成果あって、のだめの料理も人道的なレベルにまで這い上がった。
一人で残された料理を温めて食べようと準備をする。
のだめがするり、やってきた。

「先輩」
一呼吸の後、言葉。
千秋は視線を隣へやってきたのだめへ。
瞬きひとつ。
「あの、きのうは」
「うん、・・・・・・ごめん・・・」
のだめをぎゅうと抱きしめる。おずおずと手が腕に回された。
「・・・・・ごめんなさい」
「・・・うん」
錯誤、それはしょうがないこと。

きっとね。







「料理上手になったじゃないか」
「ほんとですか!?やった!」
とろり、卵の上にソースを。
「ハイ真一君ご飯デス」
満面の笑み、千秋はのだめの頬にキスひとつ。
「どうも、奥さん」
素直になれた、気がする。
ふわり、のだめが笑う。
のだめが言う。
「今日あの子もじゃもじゃ12楽章歌ったんですヨのだめと一緒に」
「はぁ!?覚えたのか?」
「そうみたいです」
スプーンを持つ千秋が冷たい視線を送る。
「お前・・・しょうもないもん覚えさせんなよ・・・」
「しょうもなくないですヨ!すごいじゃないデスカ!」
「いや確かにすごいけど・・12楽章も?」
「そうデス!すごいでしょ」
へへんと胸をはるのだめ。
「いやすごいのはお前じゃないから」
掬う、口へ運ぶ。
「わかってマスー。あっそれでピアノも一緒に弾きました」
「うーんもうそんな年だもんな・・・・」
「どうしましょうね」
「自主性に任せるのがいいと思うけど、小さい頃からやっといた方が得だしなぁ」
「こんどリハに連れて行ってみます?」
「そうだなぁそれもいいかも」
他愛のない、幸せな会話。
食べ終わった千秋が、ごちそうさま、と食器を持って台所へ。
ひょこりと、のだめが隣に。
「おいしかったデスか?」
「うん、あいつも喜んでたろ?」
「ハイ!」
本当に嬉しそうにのだめが笑い、千秋も笑みを浮かべる。
「ほんっとかわいいやつだよな・・・あの手でピアノ弾くの見たか?かわいすぎるって・・」
「だーかーらー今日弾いたんですって」
「そうだったそうだった」
「ママ、パパ」
びっくりして振り向いた先に目をこすりながら立っていたのは。
「あれ、起きちゃったんデスカ?」
「おう、ただいま」
寝ましょう、というのだめの足のあたりをするりと抜けて、
「パパー」
おかえりなさい、と眠そうなかわいらしい声。ぎゅうと足のあたりにしがみつく。
ただいま、と答える千秋の頬が緩んでいる。しゃがんでだっこ。
のだめが困ったように笑って、しょうがないデスねーと言う。
「お前今日もじゃもじゃ覚えたんだって?」
「うん!うたえるー!」
「すごいなーよーしいい子いい子」
完全に覚醒したのか、ぱぁっと満面の笑みを浮かべて言う。
「ねぇパパあしたおやすみでしょ?」
「そうだぞー遊ぶか?」
「うん!ママもー」
「ハイハイ遊びマスよー」
じゃあもう寝ようねぇ、とのだめが千秋の腕の中から抱きかかえとる。
「おやすみ」
「おやすみなさいー」
パタンとドアの閉まる音。千秋はワインをあけようとグラスを用意する。
しばらく扉の向こうから聞こえるのは二人の会話、子供っぽい声と、本当に子供の声だ。
「・・・・・パパー!!」
しかし本当に目が覚めてしまったらしい、ととと、と部屋から抜け出して。
千秋は眉をひそめる顔をした。
「ダメだぞ寝なきゃ」
「だってねれないんだもーん」
のだめが寝なさい、と声をかけてもなおそのかわいらしい顔で駄々をこねる。
「じゃーね、こもりうたほしい」
「・・・・・」
「パパとママの」
一度、顔を見合わせて、苦笑。
「・・・・そしたら寝る?約束できる?」
「するー!」
指きりげんまん。
小声、でのだめが。
「・・・え、あの、ピアノとヴァイオリンのことデスかこれはまたもしかして」
「・・・歌じゃないの?」
「ちがうーがっき!」
大きなお目目をくりくりさせて、はやくはやくと千秋のヴァイオリンケースをどこからか持ってきた。
「あっお前なんでそれが出せたんだ!?」
「えっ!?・・・・・」
「時間・・・は八時だし大丈夫か」
「じゃあ寝るって約束守るんですヨ?」
うんうんと大きな首肯。
ベッドにさあさ、と押しやるとすとんと入って。
「何でこういうときだけ素直なんですかね?カズオ似?」
「お前なんか言ったか」
「いいえなにもー」
にこり、と千秋の笑顔。怖いデス、とのだめが口を尖らせた。
「じゃあシューマンの?」
「いいよ、メロディ追うから」
弦の準備をした千秋がしゅ、と撓らせて構える。ドアの向こうではちゃんと寝ているといいのだけれど。




子供の情景、トロイメライ。
隣の住人が聞き耳を立てて、ああこれは子守唄と知る。優しく優しく、限りない愛情の溢れた演奏。隣には小さな子供がいることは知っていたから、(そして親が誰であるかも)なんとも贅沢な、と彼は白いひげを扱き息を吐いた。


********

「あれ」
「・・・・」
「・・・だってねむれないんだもん」
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by kanae-r | 2004-12-09 18:00 | 連>nodame | Comments(0)