当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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何か手がかりは無いか、と机の上の書類を捜していると
かちり、と何か隠し扉の鍵が開いたような音がして、
呪で見えぬように隠されていた、小箱が現れた。

このところ、彼の主が色々な呪やこの常世の理を学び、利用するようになって
彼の預かり知らぬ所で、彼や側近の者たちを欺くような、
色々な呪いの仕組み(中には罠といえるようなものも)が出来つつある。


ぱかり、と蓋が開いたその小箱に
ふと、目に入るようになったその図に、
どこか妙な胸騒ぎを覚え、
通り過ごそうとした景麒は、再度まじまじ、と図を目にする。

真ん中に、天球。
天球の周りに、12の円。
彼がこの常世で、12という数字を強く認知する世界そのもののあり方は
どちらかといえば花卉のように天帝の住まう五山を中心に世界が広がるものであり、
その姿の在り様が強く体のどこかに植えつけられている。

幾何学に円を広がるその図は、彼がこの世に只一人と仰ぐ主上が画いている途中なのか
製図に利用したと思われる機具が放置してある。

十二国の地図に上書きされているその線と
線を白紙に写紙したもの。

彼女をこの世界に迎えてから、長い付き合いになるものの、
その意図を彼は今いち、掴むことはできない。


視なかった振りをして、箱を閉じれば、かちりと音がする。呪が再度架かったのか、姿は再度見えなくなる。

彼は本来そこに居るはずの――積翠台から脱走を図った主を回収する為に
王気を探るために耳をそばだてるようにして、
気配を探る。

それは少しばかり―少しばかりと言って良いか憚られるけれども―、遠い場所にあった。





「陽子」
後ろから掛けられた声に、肉包子を齧っていたその少年――の為りをしている、少女――は
口いっぱいに膨らませて、ん?と振り返った。
赤色の髪に、翡翠の色の瞳。
立ち上る湯気、食べ物、市場の活気に当てられてか、きらりきらり、と瞳が踊る。

声を掛けたのは、頭に布を巻いた、紫瞳のこれまた少年。にっこり笑う。
赤い方と比べると、若干の年若に見える。
うまそーに食うなー、餡包子俺もひとつー、と店主へ注文をすると
断りなく、どっかりと彼女の座る前へ腰を下ろした。
「何でこんなところにいるんだ?」
「春休みです」
「そうか」
ほら、と陽子はひらひらと、表通りを指さす。
「この国といえば、この時期、綺麗でしょう」
胎果の王と麒麟が住まうこの国では、誰の酔狂か、彼の故国の、春を彩る花が所処で植えられている。

ほかほか、と湯気を立てる餡包子がもうひとつ届いたところで、
生臭喰っていて、すいませんね、と陽子が言えば、
ココのは何でもうまい、とぱくりとかぶりつく。

表通りの熱気、健全な春の気候。

「そういえば、なんかおもしろいことやってるんだって」
「延・・じゃない。六太くんは何処でその話を?」
「俺も色々と、人脈があるんだ」
えっへん、と偉そうに胸を反らす少年の姿が面白く、陽子はくつくつ笑った。
「面白いも何も。若輩者は判らないことばかりなので、色々と理を知りたいだけで、皆さんに教えてもらっているだけです」
「理ねぇ」
お茶だよー、と店主が愛想良く、質素だが頑丈な、卓子の上に、どん、と湯気の上がった粗茶を置いた。
置いた拍子に湯呑から湯が零れる。

「ゼロサム、という言葉が蓬莱にあってですね」
陽子はまだ温かみの残る、零れた湯に指を浸すと
そのまま木の卓子の上に、数字を描く。
「世の中の理として、何処かで正が生まれれば、何処かで負が生まれる、利益が生まれれば損失も生まれる。世の中は概して零となるよう、天秤が取れている、という理論です」
「それで?」
「この十二国、大陸が限られているでしょう、生物は自らの力で増えることは出来ない。天に願い、里木に子が為される。全ての生物の質量はコントロールされる。一国が国境を越えて他国を侵略も出来無い。凄く良く出来ていると思いませんか」
「前に尚隆も似たようなことを言っていた気がするなぁ」
「六太くんもお気付きでしょう。こちらの文明が、蓬莱よりも遅れていること」
「国が滅ぶのなんて、当たり前だもんなぁ」
「互助の仕組みも無い。人の生き死にを、王や天が支配している。それって凄く、人を馬鹿にした話だと思いませんか」
今日は春の始まりの日である。
春の始まりの日、本来であれば、王宮で彼女も自国の為の祭事を執り行っている筈である。
その辺は、有能な部下に任せてきました、と彼女はしれっとのたまった。

「だから私は、そんなのって違うと思ってるんです。人の生が、生き死にが、誰かに支配されているなんて」

今日は日の出から日没までの日の長さと、日没から日の出までの夜の長さが同じになる日。
日夜平分といって、陰陽の気が調和していて気候も温和であり、何ごとも順調である。

「今日ここに来たのは、六太くんの国の中で、春が始まる場所だからです」

龍穴、という別名称を持つその場所は、雁国に於ける、春を代表する観光地でもあった。
関弓から離れた、飛地の凌雲山の麓には、
春になると、風が吹き始める穴がある。それは五山に通ずる、と地元では言われ、
咲き乱れる花が非常に幻想的なもので、
こうして店が軒を連ね、わいのわいの、と色々な人間や半獣がいるのである。

「こうしてみていると、本当に、風に乗って春が運ばれてくるのがわかりますね。とてもバランスの取れた気で、心地が良い」
いつしか、彼女の麒麟が傍に立っており、うわ、と陽子が大きく驚いた。
「何でお前、ここにいるんだ」
「その言葉、そのままお返し致します。官吏一同お待ち申し上げておりますので、お戻り下さい」
「陽子は休みじゃなくて脱走してたの」
「違う、権利だ、これは」

逃げ出そうとする少年の為りをした少女の腕を、がっちりとその長身の男は押さえ―少年と同じく、髪を布で巻き、瞳は少年と同じ紫でありながら、薄く・冷たい色をしている―
ふかぶか、と少年に礼をとった。
「身柄の確保にご協力頂き感謝します」
「六太くんっひどい」
「偶然なんだよ、偶然。引き止めてごめんな陽子」
「冗談だよ、気付いていた、私も。長く一緒に居ると、麒麟の気配が判るみたい」
諦めたように体の力を抜き、赤毛の少女は笑う。
又来るね、そういって伸ばされた手が、六太の頭を撫でた。
それは、どこか、特別な熱量を持って―彼が尚隆に感じるものと何処か似て―
彼女とその下僕が去った後、ほんわり、と熱を残す。

少年の愛する国は緑豊かに穏やかで、気持ちが良く、こんな日は、何か特別な心地よさを感じる。
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by kanae-r | 2014-09-12 20:48 | Zodiac >12 | Comments(0)