当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

taurus





麗かな天気である。
舞い散る花弁、草原。
雲海に繋がる山の麓に、忘れ去られたような、古びた城。
嘗て大昔に、府城が合ったのか、定かではないが、今人が住んでいる気配は無い。
山肌に添うように、地形を利用したその城の中で、鎖が擦れるような、嫌な音が響く。
遥か下に見える草原に、放牧された牛が、のんびりと草を食む。
全体の流れを追い込むようにして、馬が一頭、闊歩している。

慶東国は東の果て、首都を構える頂は天高く厳しい岩肌をしている。
北部には、耕作には厳しい山岳地帯があり、岩肌を家畜が草を食む。

眼下の牛飼の、手馴れた様子で馬を操る、春らしい風景―雪が溶け、草が生えるにあわせて、家畜を移動させているのだ―を見遣る彼女の耳に、
くぐもった声が届いただろう。
彼女は窓枠に腰掛けながら、再度室内を見遣る。そこには、憔悴しきった男が、鎖に繋がれて、ぎろりと赤髪の少女に目線を見やる。
陽子、という御名にふさわしい、太陽のような、燃えるような髪。
若々しい、翡翠色の瞳。
まるで夏のようだ、と浩瀚は過去、思ったことがあるが、こうして春の陽光の中で見遣ると、これはこれで、非常に春の様相に合う様でもある。

尚、口を割らない男に、業を煮やすでもなく、じっくりと陽子は男が口を割るのを待っている。
目線が合う。呪詛の言葉が陽子に浴びせられる。
陽子は答えない。

州城から離れたこの山の麓が、そうした、犯罪を犯した者の、流刑地であることを知るものは少なく、
国の王が来ていることを、知る者は得てして少ない。







浩瀚は、明るい春の陽が、その人の影を顔に作っているので
内心の感情を一切読み取れないでいる。
こうして、赤王朝の初めから付き合いのある彼であっても
何時の間にか、こうして彼の主の深遠なる想いは一切判らないでいる。
最初は、小娘、と思っていたのに。やはり王という存在は、臣下が想いもよらない次元に居るのだと
まざまざと感じる。

「台輔は無事漣極国にご到着とのことです」
そう、と、女性にしては低い声が答える。


ある程度の、期間を持って、やはり朝の波風は立つようである。

この粛清の期間、障りがあるので、ということで、慶東国の宰輔は渉外の業務の為、国外へと視察に出ていた。
くれぐれも、という言葉を残して出かけた、冷たい金色の鬣をした、麒麟は、
自分が居ぬ間に行われることを、理解している。

朝が安定するまで、泳がせていた、官吏達の、最後の名残の粛清でもあった。古い悪しき習慣を継承する官吏が、残す禍根が、慶の新しい、若き芽をつぶすことに他ならない。
結局、説得や懐柔や、様々な手段を試みた中で、柔軟に改心を進めたり、根本から難しい場合には、政から遠ざけよう、と陽子は試んだものの、
やはり相手は数代の王朝を切り抜けてきた手垂れ、陽子の側近達への殺害未遂、というところまで
事態が悪化して来てしまったので、こうして陽子は、一人ひとりと向き合っている。
合えなく最後の手段をとる形となった。


翡翠の目は、深い色をしている。
慈愛でもなく、哀れみでも、憎しみでもない。
何かを推し量ろうと、もしくは、諦めに近い、色。
浩瀚は、只管、その意思を組むだけである。







逆賊、として、最後に主に刃を向けたその官吏は、
彼らにとっての、只一人の主によって、返り討ちにされた。
白刃がきらりと春の陽光を受け、血のにび色が、燻った黒味を刃に写す。
ぬらり、と光り、眩暈がするようだ。

少女の為りをした、その国にとっての一人の神は、
声を発することも無く
只深い翡翠の色で、相手を見つめるばかりである。

そう、ここ数年、彼女は余り、言葉すくなになっている。




「浩瀚」

は、と答えれば
草原に立ち尽くした彼の主は、彼のほうを消して振り返らない。

「麒麟がいない。私がやっていることは、仁道に悖ることか」
「台輔は了承済みで漣に向かわれております。慶の国民の為の仁道には悖りません」
そうか、と応えを返す。
白刃は、何時の間にか、草露に紛れ、いつもどおりの白く、銀色をしている。
宝重はいつでも、刃零れも無く、白刃を煌かせ、ゆらり、とけぶいている。
最後、相手を余り苦しめずに遣る方法を、彼女は何時の間にか身につけているので、
浩瀚は、それは彼女が与えうる、最上の優しさでもある、と勝手に解釈している。
死に逝く者にとって、安らかに逝けること程、最上の物であることはない。

女性にしては、低い声が、浩瀚、帰るぞ、と低く彼を呼ぶ。
呼ばれた声に、浩瀚は、深い感情を、抑えて立つ。



恐れ入ります、と声を掛け、
陽子が立ち止まれば、
恐れ多くも尊顔に手を翳し―
顔に撥ねた、赤い血潮を、布で拭った。


その瞳に怖れの色は無い。

気付きあげてきた、絶対的な年月による、信頼か―
それはそれで寂しく思っていると、
主がふと、伏せていた瞳を上げた。
赤銀色にけぶる睫毛の下で、鮮やかな翡翠色が―何故だ―と言わんばかりに
面白がる色合いをして、浩瀚を視ている。
心を読まれたようで、内心の驚愕を、何時もの通り分厚い仮面の下に閉じ込めて、
その視線を受ける。

いいえ、何も。

そう、口で答えた分けでは無いが
また興味を失ったように、主の視線が、さらに前方へと、飛ぶ。

彼方には凌雲山が見える。



地面から、斑渠がぬっすりと現れて、甘えるように陽子に近づいた。
[PR]
by kanae-r | 2014-09-13 20:57 | Zodiac >12 | Comments(0)