当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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libra





祥瓊は憤慨していた。
ここまで磨き上げてきた宝物に、傷が付く事が多くなってきたからだ。
うーん、と唸る友人兼主に、こら、と声を荒立てる。
「動かないでよ!」
ごめん、と言うと、神妙な顔をして、そのあと、陽子は噴出した。

「せっかくの美人が台無しだよ」
「誰のせいよ!心労ばっかりかけて!」
べち、と尻を叩くと、痛い、と陽子は笑った。
ぷんぷん怒りながら、身体を拭く布を、熱い湯に浸して、固く絞る。
小衫が肌蹴た小麦色の肌は美しいが、赤い血が固まった膿が、身体の腹の辺りで固まっている。
「失礼致します、冢宰が火急の件で奏上仕りたいと」
「主上は今沐浴中だと」
「構わん、通せ」
「陽子!」

ああ、と陽子は祥瓊の目尻に手を伸ばした。
「そんなに怒らないで」


さ、と手短に衣服を整えた瞬間を見計らって、冢宰が堂室に入ってきた。
優雅に一礼したまま―あえて顔を合わせないようにしているのか―今しがた、別の部署で起きた台輔の寝所で血にまつわる騒動が起こっていることを報告する。
陽子はそれを聞いて、身体を起こした。
羅衫を羽織、手元にあった水禺刀を手に取る。

気配で祥瓊が怒っていることを察したのか、目で謝ると、
美しい眦が、さらに怒ったように釣りあがった。

「うちの可愛い景麒を毒するような真似をな」
事態の深刻さとは裏腹に、軽く陽子が言い、顔を上げるように、と、冢宰の肩を叩く。

歩き出したその歩には、身体の痛みを感じさせる動きは一切無い。
(貴女、今自分にどんな噂が立っているのか、知らないでしょう)
祥瓊は貴人達を頭を下げて見送りながら、溜息を押し殺した。
殺しても死なぬ、と官吏の間では揶揄されているのだ。





片手には水禺刀。
その見送る後姿が、馴染みのものになってしまって、
不謹慎ではあると十分承知していながら
かつて出会った頃を思い出して、祥瓊はぐん、と涙を呑んだ。誰も死んでや欲しくない。







季節は秋になっていた。
四季の美しいこの国では、麓の木々から、我先にと葉が赤く染まる。
畑は金色に、麦や米が実りの色を付ける。
何事も無く、順調な下界に対して、雲の上だけが、どろどろと、暗雲立ち込めていた。


和州の栗を使いました、と少し前に、鈴が手製のお菓子を持ってきたらしい。
奏上の為に通された書房で、彼の主はほくほくした蒸したその菓子を、ぱくり、と頬張った。
屑が付いた指先を時折、ぺろりと赤い舌が舐める。
ちらり、と見える腹に巻いた包帯の白さを無視した。


榻の上で足を抱え、羅衫を羽織、菓子を喰いながら資料をぺらぺらと捲る。
高貴な人間がする所作としては、非常に野蛮であることを無視しながら、
自身も同様に目の前の書類をぱらぱらとめくって、浩瀚が奏上する。
「秋分の行事はどうなさいます」
「今年は中止だ。天の機嫌を損なわない最低の事だけしかしない」
「祝詞のみとしましょうか」
必要ない祭事を圧縮して、陽子は時間を作ろうとしていた。
「市井に降りる、良いな」
「謀反の準備をするなら、予めお知らせ下さい」
「何でも知っているだろう、私のことは」
ぎろり、とねめつけた視線を軽く浩瀚は無視する。
ぺろり、と指先が舌で舐められて、
そしていつの間にやら、大量にあった鈴の菓子がなくなっていることに気付く。

時折、甘いものを好くなど
年相応の姿を見せると思えば、この主は、
昨晩のように、大の大人を打ち負かす酒豪でもある。



榻の上で、膝を抱え込むようにして、
その様子から、彼の人の苛々、が最高潮であることを浩瀚は知る。
こういったときに、彼の人には、近づかない方が無難なのである。

「おい」
陽子の呼び止める声に、
冢宰はもっと早く退出しなかったことを後悔しながら、は、と顔を更に伏せた。
運べ、という言葉にのっとって、
まだ包帯と薬の臭いが、ぷん、と届くような距離の主を、よいこらせ、と一抱えにする。
腹の傷が痛まぬよう、腰と尻を抱えるようにすれば、
腕の内でおもったよりも柔らかい身体が、力なく体重を預けている。

「御身を危険に晒すことなど出来ませぬ故、何か市井で画策されるのであれば、拙めもお混ぜ下さい」
「悪巧みする時間など無いよ」
ふん、と笑った女王に、苦笑いしながら男が答える。
「喩え話でございます。貴女を待つ時間は、とても長うございますから」






遠くを見ているその顔の口の端に、先ほどの菓子屑がくっついているのを、丁寧に衣の袖口で取り去ってやる。

興味無さげに一瞥し、主は再び、遠くの空を見遣る。眦は透明で、一部の翳りも無かった。
実りの秋である。
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by kanae-r | 2014-09-14 21:47 | Zodiac >12 | Comments(0)