当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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sagittarius





桓魋は何処かに置いて来てしまった自身の荷物に思いをはせた。
あの中には携帯食料や水や、最低限必要な物が沢山入っていたはずだ。

はらはら、と小雪が舞い、その片が大きいことから、
根雪になりそうな気配を感じる。
慶東国の北部は雪が深い。

「青将軍!」
後から付いてきた部下が、慌てたように桓魋に追いついて、その腕の中で苛烈な焔を瞳の中に燃やしている、貴人の姿に気付いた。
赤い髪が鮮烈なその女王は、太腿から同様に赤い血を流している。鏃の傷を受けている。

隔壁から射られるような矢の傷ではない。
呪によるものであることは明確で、冬器の傷のようである。




「貫通していなくてよかった」
落ち着いた体で赤い髪の貴人は将軍の受け答えに答えている。
手際良く着ていた小衫をびりり、と裂いて、
赤の女王は太腿に巻き、止血をする。
幸いにして、掠られた傷でもあったが、
「・・呪か」
びりり、と痺れが身体を襲っているようであった。

後から桓魋に追いついた部下が、求めていた荷物を持ってきた。
酒精の強い液体を、じゅ、と太腿にぶちまけると、
痛みを感じたのか、端麗な顔がくしゃりと滲む。
いっこうに血はとまらず、どくどく、とひたすらにながれている。

「死なんでくださいよ」
勝手に死なれたら、浩瀚様に殺されます、と青将軍は言った。


「大丈夫だ、死なん」
皮肉なように、不敵に少女は笑う。
「死ねないんだよ」



++



そもそも征州に謀反あり、という一報からして、火の無いところから炙り出されたような話だったが、
彼の主でもある浩瀚は、非常に不可解な顔をした。
「主上から目を離さないように」
陽子が狙われているもの、敵対しているものの姿がまったく桓魋には見えていない。
征州の一件に関して、本当の黒幕ではない、というのが浩瀚の意見ではあったが、
そもそも黒幕は彼の主ではないか、と人払いをした堂室で、浩瀚は言った。


遠い目をして、考えごとをしている風の少女は、痛みを感じていないようにも見える。
それは宝珠のおかげ、というわけでもなく、何か人外の生物のようである。

「痛みますか」
うん、と答えた翠の瞳が、暗い暗い陰を落としている。
簡易的な天幕を張って、応援の部下を近くの里まで呼びに行かせた。暗い夜の森には、妖魔がいるわけでもないのに、どこからか殺気が来るようで、ぴりぴりとした冬の冷たい空気が刺さる。
外にいますから、と声を掛けて、応援を待つ。
長い長い夜だ、とそう感じた。

「痛むだろ」
天幕の外に一度出て、目を離したすきに、誰かが進入したのか、突如中から見知らぬ声が聞こえ、桓魋は凍りついた。
「悪趣味だ」
思ったよりも近くから聞こえた声であったが、陽子は驚いた様子を出さずに、くぐもった笑いをもって答えている。
桓魋は驚いたものの、しずかに槍の柄を握り締めたまま、息を殺した。
「そうだろうねぇ、呪いだもの」
「今度は何だ、泰山府君」
「貴女のやっていることは天に喧嘩を売るようなものだ、って怒っている人がいるからさ」
「天界の派閥争いなど知ったことじゃない。伺いは立てただろう」
「そうなんだけど、申し訳ないね、うちにも問題児がいてさ」
「慶の国民をこれ以上操るような真似をしたら、私は許さん」
「きつくいっておくから」
「これ以上こちらに干渉するなら、蓬山に火を放って西王母の首を取る」
「わかったわかった」
ほがらかな、若い男の声である。

「この、血、なんとかしてくれ。いくらなんでも死ぬ」
「美しいのに」
ぐ、とくぐもった主の声が聞こえて、ついに桓魋は中に踏み入った。

「主上?!」
「・・・」
陽子は答えなかった。
痛みに耐えているのか、眉がしかめられている。
中には一人しかいなかった。
桓魋の姿をみやって、安心したように息を吐いた。
「命ずる、言外するな」


++



すう、と主が寝入ったのを見届けて、浩瀚はふう、と誰にも聞こえない程度であったが、息を吐いた。
薬品の匂いが、ぷん、とただよう。それは、絹に包まれた少女には、似つかわしくない、強いものだ。
桓魋はこっそりと、主命に背いて浩瀚にその夜のことを告げた。
なにやら、浩瀚の主は、得体の知れない大きなものを相手に勝負をしているようである。
やっと落ち着いたと思ったら、これである。
彼の隣の大国の王が嘗て言ったことのあった、百年、三百年、いくつか王朝に波があるとの話を思い出す。
何も、こういった波を迎えたいとは思わなかった。しかし、何を彼女が視ているのか、同じ目線で物を見たかった。せめて、何か語ってくれればいいものを。もしくは彼女自身、何も考えてはいないのかもしれない。
しかし、浩瀚がやりたいことは、その主そのものの希望する道を体現するための、露払いであり、下拵えである。
「仰せのままに」
柔らかな絹の掛布の上に、小麦色の綺麗な掌には似つかぬ真皮に覆われた傷がある。冬器による傷だ。
主を起こさぬよう、掌を救い上げて、唇を落とした。
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by kanae-r | 2014-10-16 04:38 | Zodiac >12 | Comments(0)