当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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capricorn





自身の主からも、得体の知れない、と快活に笑い飛ばされていた黒い青年は、自身を前にして、ふうわり、と微笑んだ。
確かに、ぽっかりと空いたからだの一部を―埋める必要が沢山あったのだろう―
嘗て蓬莱から戻ってきたばかりの頃と比較して、
笑っているものの、その裏に、深い闇を抱えて、そしてそれを乗り越えたのであろう、
それは陽子に、穏やかな、凪いだ夜の海を想起させた。

「中嶋さんは、光そのものだもの」
率直な感想を、そう伝えると、黒い青年はそう答えた。
鋼色の鬣は、伸びてゆるくひとくくりに、市井の中に紛れても、気付かないような、袍子を纏っている。
それは陽子も同じであり
寒い戴極国らしく、褞袍に鞜、獣の毛皮を用いて、熱が外に漏れないようになっている。

さあ、いきましょう、と手を差し出され、素直に受け取る。
導かれるまま、陽子はさくさく、と雪道を進む。
除雪したばかりの道に、次々と雪が積もり、人々の足跡を消していく。

「冬は晴れ間が少ないので、どうしても、塞込みがちになります」
だからこそ、こうした楽しみが多いのですよ、と越えたゆるやかな坂。
開けた目の前に広がる光に、陽子の顔が綻んだ。
「ああ、綺麗だ」
「素晴らしいでしょう」


「なんていったかな、ええと」
「かまくらですか?」
「そう、かまくら・・と・灯篭」

小さな洞をつくっておくと、雪蛍という小さな虫が、寄り付くのだという。
そして小さな洞を沢山つくって、いつのまにか観光地にしてしまったのが、
このしたたかな黒い麒麟の仕業だった。


生まれたばかりの光を、ほっそりとした指が触れる。
真皮を覆ったその傷に、不思議そうに泰麒が問うた。
「宝重はどうしたのですか」
「あれは、景麒に預けた」
あっけらかんという答えに、静かに泰麒が笑む。
「それは、景台輔は、怒り心頭だったでしょうに」
「私より、彼の方が、命を狙われるのではないかな、と思っているから」
殺しても死なない、っていうので、私は有名だからね、と呟き、陽子は息を吸った。
つん、と鼻の奥に冷気が通り、涙が出そうになる。

「貴方が来る、というので驚きましたけれど、今、お命を狙われているのですよね」
「うん」
「今、この折に来て、大丈夫なんでしたっけ」
「大丈夫。私が居なくなって、きっと、出るべき芽が出ているはずだから」
昨年公布された勅令に対し、慶国内からの反論は凄まじかった。
主に、各諸侯からの声が批判的だったのもそうであるが、麒麟を筆頭に、民衆からの不安の声が高かったのだ。
王の直々に采配された法律が、試験的に運用が始まって半年。
成果はそこそこに見え始め、一方で、明らかでもない。
期待と不安と、慶国民の思いは、彼らの暮らしが、そう変わらなかったことから
いつのまにか忘却の彼方へと行ってしまった。
一方で、明確に利益を得た者達と、明確に利益を失った者達とも確かに存在していて、それはどちらかというと、各地の利権を貪っていた仙達だったから
長い年月における忘却期間が、下界と比較して長い、というのも事実だった。

「少し、怨疎をお見受けしますよ」
優しく、泰麒が陽子の傷跡を撫でる。
「申し訳ないな」
触って大丈夫なのか、という問いに、ええ、と朗らかに麒麟は笑う。
「僕は、生臭を多少食らっても、ぴんぴんしてるくらい、愚鈍ですから」
指先が、冷たく、氷のようであった。

不思議な色をした、黒曜石のような瞳が、ふわり、と笑う。
射たつくような冷気が、つん、と鼻の奥を指して、眦からぽろりと涙の粒がこぼれそうになったが、それはどこかへと消えてしまった。

「中嶋さんの企み、ご協力いたしましょうか。替わりにと言ってはなんですが」
「何か」
「原石については致し方ない、製品に関しての内容、あれは少しおもしろくない」
「検討しよう」
ふう、と陽子は息をついた。彼は例の慶東国が課した税のことを言っている。
確かに陽子は直近、近隣諸国から嫌味ばかり言われていた。
「同郷だから、心落ち着けると思ってきたのに」
「景台輔もそれを期待してあなたを送り出したのでしょう。あながち間違いないでしょう。ほらこんな綺麗な景色」
「腹黒め」
「そのままお返ししますが」
しばらく視線を交わしたのち、二人揃ってくつくつと笑った。

小さな子供が駆けてきて、観光客にと甘い茶を販売している。
ねえさん、にいさん、いかが、と声をかけられ、
泰麒は懐から小銭を取り出し、替わりに二つの容器を受け取った。
「僕はねぇ、幸いにも玉京から生まれたんです」
「・・・」
無言で促すと、そのままこくり、と喉を振るわせたのち、暖かな吐息が、白くけぶって立ち上る。
「貴方がお探しの方、アポイントを取りますから」
「そこまでするか」
「何しろ僕も、天に対してはすこうしばかり恨みがあります。僕の王様を助けてくれなかったのだもの」
黒曜石の色をした瞳は、そこの見えぬ泥沼のようでもある。
にこりと笑ったその瞳に、陽子は小さく目礼をした。
戴の国にも彼女の国と同じく雪が降り、しかしその性質は少しちがう。
全てを奪う暴風を伴った彼女の国とは違い、それは降り積もることで暖かささえ感じることができる。それをしたたかな国民達は利用するすべを身につけた。いまやここは温泉も伴う観光名所、各国の裕福な麗人貴人がこぞってやってくる安全な場所である。

夜分とは思えぬ暖かな灯火が爛々と続き、夜遅くにも関わらず子供を含めて人が外を出歩いている。
その顔には笑顔が浮かぶ。
黒い麒麟はそれを見やって、満足そうに微笑んだ。
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by kanae-r | 2014-09-14 16:41 | Zodiac >12 | Comments(0)