当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30

aquarius





大寒を終えて、寒さはいよいよ一年の中で厳しい時分だった。

地獄があるとすれば、ここだろうか、と陽子は思う。
極土というべきだろうか、凍てついた大地では、水分も凍ってしまい、植物が生育するには耐え切れない環境が広がっている。
そこには、わずかばかりの草も無く、なぜならそこは岩凌地帯で、ごろごろ、と人間の頭程度の大きさの石が
強風にびくともせず、地面に転がっている。
ちょうど岩の大きさが、頭蓋骨のようだ。



「大丈夫ですか」
大丈夫なわけがあるか、と心の中で毒づいた陽子は、
前を飄々と歩く男の背中を必死で追った。
泰山府君、と名乗っていた男は、五岳のどこにも所属していなかった。
五岳の裏側に―ちょうど天地が裏返ったように―隠れている
この大きな大きな荒野を管轄する男だった。

人の身であれば、間違いなく低体温症とやらになり、遭難事故になるのは間違いないだろうな、
とまともに考えられない頭で、陽子はぼやいていたようであり、
「ひとりごとが先ほどから口からもれていますよ」
男は一人ごちた。
「うるさい」
陽子はせめて強がったが、そういったことも言ってられないくらいに、頭がぼんやりとしている。
白い靄。靄の向こうに嘗て失った友の影が呼んでいるような気がする。幻覚が見え始めているのだろうか。

「もう少し、ですよ」
「優しいな」
「まだ生きているかの確認ですよ」

ぴりぴり、と寒さというより痛みを感じていた耳は、厚い毛皮に覆われていたが
(出立前に祥瓊が持たせてくれたものだった)
それでも痛みを通り越して、そこにはもはや感覚が失われつつあった。
「死にそうだ」
「死んでいただいても構いませんが、死体は生国までは送り届けませんので」
寒さは痛みにかわっており、痛みが麻痺して、感覚が無くなっていく。
白い靄、岩凌地帯。只管歩みを続けていくと、ついに終わりが見えた。


「景、つきましたよ」
目の前の男は、感情が一切そぎ落とされた西王母とは異なり、くるくると感情豊かな男であった。
傍目には若い、20代のようにも見えるが、その瞳の色はまるで底なしの泥沼のように黒く深い。
若い20代の割りには、深い皺が目尻に刻まれており、20代のようにも、60代のようにも見える年齢不詳の男である。陽子はこの男が苦手だった。




永遠に続くと思っていた荒野は唐突に終わった。
まるで世界の終わりのように、ぽかりと切り取られたように、そこから先に地面がなくなっており、
白い靄の中で落ち窪んだ崖の先は見えない。得てして崑崙にも、蓬莱にも繋がっているのだろう。
泰山府君に案内されたそこは、まるで隠されたように廟の入り口があって、
その扉を越えると、今までの寒さが嘘のように、完全に制御された心地よい空間が広がる。

扉の先には、崖に沿って延々んと階段が連なっており、岩凌地帯のちょうど地下に当たる部分だろうか、洞があるのだった。彼らはここを対岱亭と呼んでいた。
「閻羅」
そこには小さな赤ん坊がいた。赤ん坊にしては、泣きもしないし、赤ん坊らしい純粋さが無い。そこにはなぜか禍々しさしかなかった。
男の呼びかけに、赤ん坊は目を開けた。
その目にはどうしても、拭いきれない老衰が見て取れる。
瞳の中の老衰と、小さな身体の対象が、得たいの知れない気味悪さをかもし出している。そう、ここはまるで死肉の匂いがするのだ。

「景と見かけるが」
赤ん坊がしゃべったのか、と陽子は勘違いをしたが、勘違いではなかった。
[PR]
by kanae-r | 2015-02-05 00:12 | Zodiac >12 | Comments(0)