当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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春はすぐそこ

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朝靄が立ち上っている。
十二の国の中で一番に陽が昇るその国は、今年は雲海の上にも雪が多く積もった。
四季の豊かな東の国だからこそ、
長い冬が明けて、春の兆しを感じるような陽光が待ち遠しく、
その日の朝は、そんな光が差していた。





燃えるよな赤い髪を持った少女が、誰もいないのを見計らって、うーんと、夜明けの四阿で背を伸ばす。
複雑な起伏を持った金波宮は、四季折々の太陽の位置によって、朝の光が差す角度が違うため
強い光と暗い影が同時に生まれる。
春を目前にしたこの季節、強い朝の光が雪に覆われた麓に辺り、蒸発した水蒸気が
一面広がって、白い靄に覆われた世界となる。
光が帯のように宮殿を刺す。

緑が芽吹く匂いが、間近に感じられて、すう、と陽子は思い切り朝の匂いをかいだ。
まだつんと鼻の奥に冷気を感じて、くしゅり、とくしゃみが出た。
朝靄の中、早朝で誰もいないのをいいことに、
嬉しくなって四阿から園林に下りる。溶けかけた雪の中をざくざくと歩き始めた。

光の帯の中を横切ると遠くで自分の影が大きく躍動する。
まるで影は意思を持っているように、消えては生まれていく。




園林を歩いて、その先の走廊からいくつかの呪の掛けられた庭院を抜けて、まるで自分が何処にいるか判らなくなった頃、気づけば簡素な木の根元に自分は立っていた。
明け方はそう長くは無いはずなのに、とても長い朝陽の時間である。

そして誰も近くにはいない。近くの四阿もまるで見たことが無く、いつかずっと昔に使われていたような
時代錯誤な古びた様式である。

白い肌をした木。
何処かで見た事がある、その記憶を辿れば、街の中で見た里木に似ている。

陽子はふと被衫の裾で、木の肌を拭った。
福寿殿に迷い込んだかと思ったが、そちらはこんな建物でもなく、ましてや人気が無いはずも無い。



朝陽がようやっと、その場所に届いた。
靄を通じてそこが、どこかの崖の上であることを知る。
目の前には雲海が広がり、そして人気も無く寂れている。

崖の形から推察するに、いつも正殿として使っている場所の
ちょうど山の西側であるようだった。
切り立った崖の間にふと生まれたその小さな空間に、
小さな四阿がぽつりとたてられている。

陽子はその場所が人目で気に入った。

そしてその、朝陽を浴びている里木に良く似た、白い木の肌を撫でる。





「春が近いなぁ」


ひんやりと冷たいその木の肌に、頬を寄せるようにすると、風がひょう、と吹いた。



心のどこかで故郷の春を想う。
桜、蒲公英、土筆、蓬。今は遠い故郷の春を。
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by kanae-r | 2014-10-13 16:48 | Le quattro stagioni | Comments(0)