当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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風紋





小舟に揺られて、男がぼんやりと遠くを見ている。


黒い髪をひとつに結んだその双眸は、遠く遠く東の方を見つめている。

「どうしてお前もついてきた」
「お前が勝手に死なないようにだよ」

問われた少年は金色の鬣をしている。
何処吹く風、と言わんばかりに、少年は小舟の上でごろり、と寝そべった。

小舟は海に揺られて―それは海といっても雲の上の海であったが―風も無く、波も無い。
穏やかに、それでも、どこか現実離れた様子で、船は前に進む。

西王母の招きを受けて、五山に行くことが決まった時、男は軽く眩暈がした。
この長き生が強制的に終焉を迎えるのではないか、と思ったからだ。

生涯の半身ともいえるこの少年に、招きを受けたことを伝えると、
ぱちくりと紫色の瞳をして、
ついにお陀仏か、と洩らした。



諸官諸侯に後のことを全て任せると、色々と段取りをして出発するときに、
今生の別れでもあるまいが、それなりの覚悟をした様子で身近な諸官が見送りそうな勢いであったので
いっそのことこのまま禅譲しても良いような気がしてきて、尚隆はおかしくなった。


もともと一人で行く気だったのに、当然というように連れ合いの少年が玄君の用意した小舟に乗り込む。

お前も行くのか、と問うように瞳を見ると、
覚悟を持った紫色の瞳が見返してきたのだった。




「こうしていると、瀬戸内の海のようだ」


嬉しくなって、尚隆はごろりと六太と同じように寝そべった。

不吉だなぁ、と六太は洩らして、でも嬉しそうに笑った。



出発するときは雲海の上ははれていたようだったのに、ふと気付けば、靄に包まれている。

永久とも思える時間が過ぎたようでもあったし、そんなに時間もたっていないのかもしれなかった。

うとうととしていた所を、ふと目が覚めたようで、
六太が身を起こす。


靄に包まれて、前後左右はまったくわからない。


「・・・・」
六太がふと、尚隆の服の端を掴んだ。
身体を起こしてみると、靄の中には遠い光が見えて、影が見え隠れしている。
その影が、遠い過去の幻影を写し始めているのをみて、
尚隆は服の裾を掴む片割れの少年を見た。
彼が見ている方向には尚隆には何も見えず、もしかしたら自分が見ている過去の幻影と、彼が見ているものは違うのかもしれなかった。
瀬戸内の炎、失った家族の影、失った大事な臣下、民、嘗て失った大切な者達が、笑ってこちらを手招きしている。
こちらにおいでよ、と言わんばかりのその姿に苦笑して、尚隆は頭を振った。

残念そうに遠ざかっていく者達に見切りをつけて、
服の端を握る少年の頭をぽん、と叩くと、瞳にいっぱい涙を浮かべた少年が、
尚隆を見上げた。
思わず笑って頭を叩くと、こどものように抱きついてきたので、何も言わずにぽんぽんと背中を叩いてやる。

何も言わず、何も答えず、
幻を遠くに見遣る六太の顔に、ひどく懐かしいものを思い出して、尚隆は思い至った。
これはかつて、緑の大地がほしい、と言った、あの時の六太の表情だ。

沢山の幻が過ぎて、やがて靄が晴れた。









永遠ともいえる時間の先に見えた岸に人の姿が見える。

見覚えのある顔である。

どこでであったのか、思い出そうとして、そしてそれがかつて自分を殺そうとした青年の姿と重なった。


「・・・更夜」
六太がぽつりと呟いた。









++









「犬狼真君、というんだ、ここでは」

玉の披巾がきらり、と光に閃いた。

「六太、延王、久しぶり」
表情の読めないその様子に、六太がぽかんとしている。

「・・神様になったってこと?」
「そういうこと」
にこり、と笑うその青年の姿は、確かに黄海を司る真君として、廟で見た事がある姿である。

「息災で何より」
尚隆の言葉に真君は指を指した。
「こっち、ついてきて」




指を指した途端、大きな扉が現れた。





「青竜の調子が良くないんだ」



五山の主である西王母に会う前に、ということで
犬狼真君が前もっての説明をした。
扉の奥には、永久に続きそうな階段が続いている。

かつて、慶国の王と、西王母に謁見したときのことを尚隆は思いだした。

「青竜は五山の東に住む竜なんだけれど、ここ最近体調が悪くて、どうしても天界の空気だけだとだめらしい」
「はあ」
訳のわからない、様子に犬狼真君が情けない顔をした。

「情けない話なんだけど、どうしても下界の空気を吸わないとダメらしいんだ」

この続きは、西王母から、と言って真君が扉を開けた。

ざぁ、と瀑布が下りてきた。












++









船に乗って再び、主とその麒麟が玄英宮に戻ってきたとき、
さして時間は過ぎていなかったらしい。

夢現の区別が付かぬまま、わあっつ周りに人間が取り巻く様子に
我に返った尚隆と六太は、顔を見合わせて、そして大笑いした。




「さぁ、支度をするぞ!」

意気揚々と、二人が笑って、そんな話をするので
不思議がって諸官が顔を見合わせる。

西王母の言うとおり、
六太と尚隆が、とある凌雲山の麓の人間を退去させて、そして奉納品を備えて、
そして十月と十日がたったとき、
この世界で噴火、というものが初めて起こったのだった。


凌雲山の麓では、山野が焼け、そしてかつてのような真っ黒な原野が広がる。
そしてやがて、人が寄り付けるほどに温度が下がったとき
そこに大きな風穴が開いているのを人々は発見したのだった。
そして春、そこから風が生まれて、春が生まれる場所が出来たのだ。
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by kanae-r | 2014-10-13 17:35 | sss>12 | Comments(0)