当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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第二十夜 沙漠





月が最後に姿をみせてから二週間以上もたちましたが、月はふたたび姿をあらわしています。まんまるで光り輝き、雲の上をゆっくりと動いています。久しぶりのその月の光が、砂を照らすものですから、なんだか世界は明るく眩しく、夜にしては幻想的に白くぼんやりとかがやいていました。

黄海とよばれる海には、水はありませんが、砂の海が広がっていました。
人間界と繋がる、唯一の街から、隊商がむかっていました。黄民とよばれるその者たちは、再び自分達のふるさとである黄海にもどることができ、どこか精悍な顔に、喜びをのせていました。
砂漠に入るところの塩の平原で、そこはまるで凍りついた湖のように輝いていて、わずかばかりの流砂が表面をおおっていましたが、隊列は一旦停止しました。腰紐に水筒をぶらさげ、発酵させていない包子をいれた小さな袋を同じように腰に紐つけた一団の隊長が、棒で砂の上に四角をかき、犬狼真君からの加護を願う一言をその中にかきいれました。それから隊商の一行が、その清められた場所をとおりすぎていったのです。

遠くから、見つめられていることに気付いていないその一団の中には、まだ年若な青年もいました。
あまり知られていないことですが、この黄朱の民にも、里木があって、こどもたちがおとなになり、契りを結んで夫婦となることもゆるされているのです。
その青年は、どこかぼんやりと物思いにふけりながら歩を進めていました。たぶん若くて色白の妻のことでも考えているのでしょう。この青年は、約束をした相手がいましたが、それはこの黄海の中にぽっかりと浮かぶ、安全な里木の街にいるはずでした。

隊列は発育がとまった木々にかこまれた水源で一休みすることにしたようでした。月の光はもえたつような砂を冷やし、広大な砂漠の海の孤島である黒い岩々をてらしだしました。一行は道なき道をゆくときでも妖魔の襲撃に遭うこともありませんでしたし、砂嵐にも遭わなければ、隊商を死に至らしめる砂の竜巻にも出くわしませんでした。

真君、と呼ばれるのは、名の無かったかつての子供でした。
赤い羽根の妖魔に抱かれるように、高い木の洞で、ぼんやりと隊商が砂の海を進むようすをみています。
物好きな彼は、何かとこの黄海でいきようとする、彼らのことをよく見ていました。
そしてもちろん、彼は、いわゆる神様でもありましたから、いろいろなところで生まれている、人々の祈りの声を聞くことも出来たのです。

故郷では、美しい妻が夫のためにずっとずっと祈りをささげていました。
『無事にかえってきますように』あるとき妻は三日月にたずねました。
『無事にかえってきますように』あるとき妻は満月にそうなげきました。
やがて月日がたって、一行は砂漠をとおりすぎ、今晩は発育の止まった木々の下で休んでいます。
見たことのない、鮮やかな長い羽を持った小さな鳥の妖魔が、羽をはばたかせ、遠くの木々の周りを飛んでいますし、くちばしの大きな狐に似た妖魔が木の下に隠れて隊商をみています。
またその近くでは、うっそうとしげった草木が何か大型の蛇の尾でふみつぶされ、倒れていました。

まだまだ家路は遠く、安心できるものも何もありませんが、喰うものと喰われるもの、というふたつしかない世界は、彼ら黄朱の民の安心できる唯一の世界のあり方でしたし、
ぴりぴりとした緊張間の沙漠に戻ってきたことは、何より、人間よりもずっと彼らが安心できるよりどころでした。

ちょうどそのとき雲がお月さまをさえぎり、一度、暗い影を沙漠に落としたのですが、
それでも犬狼真君は、やわらかい瞳の色で、彼らの隊列を見ていたのです。
甘えるように、彼とともにいた、大型の紅い鳥のような妖魔が、くうん、と鳴きました。

犬狼真君は安心したように、ぽすり、と羽毛に抱かれると、目を閉じたのでした。彼の黄海は今日も平和です。
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by kanae-r | 2015-01-20 22:36 | 絵のない絵本 >12 | Comments(0)