当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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第一夜 少女の炎





いつかの夜のことです。その日は雲ひとつない空でした。月が巧河の水面に映し出されていました。
月の光は、下の方でまるで玄武の甲羅みたいにこんもりしている樫の太い絡み合う枝のあいだまで照らし出しました。
そのこんもりとしているところから、羚羊のように身軽で女神のように美しい、一人の娘が飛び出してきました。
この娘は立ちすくんでいて、見た目は軽やかでとても美しく、それでいて真っ赤な髪をしていたものですから、まわりの闇からははっきりと目立ちました。
彼女の表情は傷付いた色をしていて、どうしてここにきたか、本人も、わかっていない様子です。
下をはう、棘だらけの植物が彼女の靴を破りましたが、そんなことには全然かまわず彼女は先へといそぎました。乾きをいやすために河へとやってきた鹿は、彼女が急にあらわれたので、びっくりして飛びのきます。

彼女の細い指先には血管がすけてみえました。
身形はぼろぼろで、まるでいまその時代にはあってさえいない服装なのですが、
周りに見る人も居ませんので、それをとやかく言う人は居ません。
何より彼女は人目を避けていたのですから。
河のそばまで降りてくると、燃えるような髪が水面に映りました。映った炎のような赤い色が、河の流れにそって流れていきます。炎は前後に大きくゆらいで、今にも消えてしまいそうでしたが、まだ燃えつづけてしました。少女の翠にかがやける瞳は、長い絹のようなまつげで半分かくれていましたが、真剣なまなざしで河に映った炎を追っています。

彼女は知っていました。もし彼女が生きることをあきらめれば、二度彼に会うことはないのです。ただその彼が味方である確証などありませんでしたが。彼女をこの世界に連れてきた本人に、問いただしたい乱暴な気持ちだけは溢れてこぼれようとしそうなのでした。恨みか呪いか、どろりとした彼女の、生きる縁の、炎はしっかり燃えつづけ、彼女はひざまづきました。まるで傍目には祈りを捧げるように。

すぐわきの草のなかには斑点のある蛇がいましたが、彼女はそんなことは気にかけません。彼女が考えていたのは、自分の血潮のことです。いくつかの襲撃と、深傷を負う中だったのです。「生きてる」 彼女は心の中で叫びました。
突然世界に連れられた理不尽と、憤りが爆発したのです。

「生きてる」 水音と一緒に幻影からはきゃらきゃらと笑い声とともに、こだまがかえってきます。「生きてる」

水音は虚しく、河の音に紛れてしまいました。
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by kanae-r | 2014-10-17 03:30 | 絵のない絵本 >12 | Comments(0)