当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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第七夜 森





かつて、夜が更ける、と言う意味の名前を持っていた男は、小さなこどもに話掛けました。
こどもはまるで月の光のような白金色の鬣と、夕方から夜に向かう空のような薄青紫の瞳をもっていました。

「波打ちぎわには延々と、楢と橅の森がつづいていたんだ。この森は生き生きとして、いい香りがしてね。春になると何百羽の小夜啼鳥がその場所を訪れる。常に姿をかえる海にたいへん近くて、海と森のあいだには大きな門があってね。そこから昇仙者たちを向かえ入れるてはずになっていた。ただ私はその役回りが嫌でね、視線はいつも、人を見ていなかった。そこにはかつてだれかの墓があり、橉木が岩々のあいだに生い茂り、ここにはいったい誰がいて、何を語りかけているのだろうって」

「どうして死んだ人のことばかり考えていたの?」

「死んだ人のほうが、生きている人よりも思い出があったからさ」
もちろん今は違うよ、その男はいい、小さな枝切れを遠くにほうりました。
その動作で、彼が首から掛けている玉の披巾がしゃらり、と石と石が触れ合う音がします。

「そのうちにたくさんの荷物をつんだ二人がやってきた。『立派な木々だな』片われがいうと、『確かに、一本から十荷は種木がとれるな』と相棒が答えた。『今年はわからないが、昨年は一荷十四銭だっけ』そして二人は吟味したのちに去っていった。それは結局、猟木師だったみたいでね。本来の役目を全うしないうちに、昇仙者はどこかに行ってしまったのさ。それで私はどうでもよくなって、気に入ったそこにしばらく居座った」

「ふうん」

「いつしか季節もすぎて、花の香りが辺りにただよい、風もおちつき、まるで海も深い谷の上に広がる空の一部になってしまったかのようだった。あるときは一台の馬車が通り過ぎ、6人がすわっていた。4人は寝ていて、こどもだった。5人目はこどもの新しい夏の被衫をしつらえていて、6人目は馬を走らせる役目をしていた。いつのまにか私に気付いて、向こうに見える石が積んであるのは何かめずらしいものかと私に尋ねた。『いいや』私は答えた。『ただ石が積み重ねてあるだけで、あっちの木々は特別ですが』『それはまたどうして?』『どうして特別か教えましょうか。冬に雪がどっさりつもると、道がぜんぶ隠れて何もみえなくなって、その木々が目印として役立ってわけです。あれを目印にするんで海につっこんでいかなくてすむのですよ。』そうしてありがとう、とその人は答えて、そのまま進んでいった。その者たちも朱旌だった」

「あるときは、花娘が一人でやってきた。一言も話さなかったが、目は輝いていた。花娘が口笛をふくと、小夜啼鳥たちも以前より大きくさえずいてね、それで墓のところで一休みしているのさ。青白い整った顔で、森の方に耳を傾けていた。目はきらきらと輝き、海と空を熱心にみつめていた。何か熱心に祈りをささげているようにも見えたから、でも気付けばいなくなっていてね。どこへいったのか」

「結局昇仙者はどうなったの」

「何時の間にか昇っていたのさ。私が何をしなくともね。だから私はそこの役目を降りて、ぶらぶらとしている」

「ちゃんとお仕事しないとだめじゃないの」

「きみに言われると耳が痛いねぇ」

男はきらきらと月の光のような鬣を撫でました。

「そういう君は誰かを待っているのかい」
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by kanae-r | 2016-11-19 20:14 | 絵のない絵本 >12 | Comments(0)