当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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第十夜 長い旅路





ひとりのおばあさんがいました。

彼女は冬になるといつも黄色の長巾を羽織っていました。それはいつかむかしに流行したものなのかもしれないし、彼女が自分でつくったいつの時代でも使えるものなのかもしれません。
それは彼女が唯一ながくながくつかっているものでした。
夏になると、夏には薄い披巾を羽織っています。それもおなじように、彼女がながくながく使っているものです。

そこは長閑宮とよばれる才国の凌雲山でした。
そのおばあさんは、いつのまにかまわりからは黄姑、とよばれていました。

おばあさんは、めったなことでは、雲の向こう側の昔からの親友や家族のところまで行く以外は外出しませんでした。それはつまり、むかしむかしに、親友や家族が死んでしまったので、お墓参り、ともいえることです。
おばあさんはひとりぼっちではなく、すぐ傍には、はかなげにいつも笑っている、か弱い金色をした髪の少女が一緒にいました。線の細い、繊細そうな顔立ちの少女です。もの静かなようすで、いつもふわりふわり、とわらっているようでした。外見は十五、六歳です。

めったなことでは外出をしないものの、おばあさんはいつもその長閑宮で忙しそうにしていました。長楽殿では庭院に、夏は小さな花々が咲き誇り、冬は芥子菜が育てられています。
ここ数ヶ月は、おばあさんを庭院でみかけることもありませんでした。ただ彼女は生きていますし、ほんとうは大好きな庭弄りができていないことが、何より元気な証拠です。
彼女はまだ『長い旅路』につくような天命ではなく、それは彼女が人間ではないことを意味しています。

『長い旅路』とは、おばあさんが親友とよく話していたことでした。「そう、そう」彼女はよく言っていたものです。
「死ぬときには、一生の中で一番長い旅をするのですよ。わが家の墓はここからずっとずっととおくにはなれていて、わたしはそこに運ばれ、家族や親戚といっしょに眠ることになるのが夢なのです」

それを聞いて、いつもおばあさんの傍らにいる、はかなげな少女が不安そうに首を傾げました。
「主上、でもそうしたら、わたしはひとりぼっちになってしまうの」
「いいえ、揺籃、そんなことはありませんよ」
金色の髪は―ほんとうは、それは鬣でしたが―黄姑の皺だらけの手のひらの中で、
つきの光をうけて、真珠のような色合いに輝いています。
いつもの黄色の長巾を膝に掛けて、黄姑は榻でゆったりと金白色の鬣を梳いてあげます。

「どこで命を落とそうと、いつ、どういった別れ方をしようと、わたしたちは、最後はみな、同じ場所で眠って、再び会えるのですよ」

安心した様子で、少女が息をつきました。やがてそれが、寝息にかわるのをみとどけて、黄姑は彼女を臥牀にはこぶように、と近くの従者に言い伝えます。

やがて月が沈んで、朝がまもなく、やってきました。
ひばりは今日も再びとびたち、楽しげにさえずりました。そして月は朝焼けの真っ赤な雲の後ろに姿を隠しました。
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by kanae-r | 2014-10-16 22:50 | 絵のない絵本 >12 | Comments(0)