第十二夜 天才と栄光
2014年 10月 18日
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ある窓から月の光がのぞき込んでいました。
それはとある凌雲山で、北面の崖にまるでへばりつくように存在している、大学の寮です。
房間にはりっぱな家具などなく、卓子と、多くの本があり、新聞が散乱していました。鼠が卓子に向かって書き物をしています。もうひとり、粗末な袍子をきた少年は窓の桟に座っていました。少年の身なりに見えますが、赤い髪が月の光にあたって、淡い陰影をそのしゅっとした頬の産んでいます。肌は程よく焼けた小麦色をしていましたが、白くまろやかなその様子から、よくよくみれば少女であるようにも見えました。
いずれも若い二人のようですが、両方ともそれぞれが持つ書に没頭して、気付けば陽が落ちているといった按配です。ふたりがニ冊のささやかな書を批評されています。
「これは私に送ってきたものだ」と少女はいいました。「まだ読んでいないが、あなたがたはどう思う?」
「うん」一人が答えました、彼自身は学生でしたが色々と見聞を広げて、書き物をして身銭を有る程度稼いでいるところがありました。
「まあ月並みのできだと思うよ、思想に偏りも無い」
「でもあれはまったくのやっつけ仕事ですよ」
第三の男が意見をのべた。少女の付き人のようだった。
「月並みほど最悪なことはありませんし、この書はまったく月並みそのものといっていい」
「かわいそうな若者だ」鼠が口をはさみました。
少女がすみの方に腰掛け、本の次の部分を読んでいました。
「天才と栄光は塵にまみれど
平凡な才能はみとめられる。
これは古き、古い話なれど
同じことは日々繰り返される」
ある窓から月の光がのぞき込んでいました。
それはとある凌雲山で、北面の崖にまるでへばりつくように存在している、大学の寮です。
房間にはりっぱな家具などなく、卓子と、多くの本があり、新聞が散乱していました。鼠が卓子に向かって書き物をしています。もうひとり、粗末な袍子をきた少年は窓の桟に座っていました。少年の身なりに見えますが、赤い髪が月の光にあたって、淡い陰影をそのしゅっとした頬の産んでいます。肌は程よく焼けた小麦色をしていましたが、白くまろやかなその様子から、よくよくみれば少女であるようにも見えました。
いずれも若い二人のようですが、両方ともそれぞれが持つ書に没頭して、気付けば陽が落ちているといった按配です。ふたりがニ冊のささやかな書を批評されています。
「これは私に送ってきたものだ」と少女はいいました。「まだ読んでいないが、あなたがたはどう思う?」
「うん」一人が答えました、彼自身は学生でしたが色々と見聞を広げて、書き物をして身銭を有る程度稼いでいるところがありました。
「まあ月並みのできだと思うよ、思想に偏りも無い」
「でもあれはまったくのやっつけ仕事ですよ」
第三の男が意見をのべた。少女の付き人のようだった。
「月並みほど最悪なことはありませんし、この書はまったく月並みそのものといっていい」
「かわいそうな若者だ」鼠が口をはさみました。
少女がすみの方に腰掛け、本の次の部分を読んでいました。
「天才と栄光は塵にまみれど
平凡な才能はみとめられる。
これは古き、古い話なれど
同じことは日々繰り返される」
by kanae-r
| 2014-10-18 11:12
| 絵のない絵本 >12