当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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NOW HERE (4)

■のだめは慎重にAの音を鳴らしました。440Hzの音の波が鼓膜を振動させます。
「お前、あれはなんなわけ?」
千秋がキッチンからのだめに尋ねました。あれと言われてその視線の先をたどるとそこにあったのは洋子の送ってきたダンボールです。
「ああ、洋子が送ってきてくれたんデス、今日さっき」
ふうん、と千秋は気の無いような返事をし、再び下を向いて食器を洗い始めます。
のだめはピアノを弾き、千秋は食器を洗う。毎食後のお決まりの役割です。
のだめは悪いなと思いつつもピアノを楽しく弾き、彼は彼でこのなんともいえない食後の時間が好きなのでした。
のだめが子犬のワルツを弾きはじめたので千秋は口の角を持ち上げます。誰かが見たら微笑しているように見えることでしょうが誰もそんな千秋の笑顔に気づく人はいませんでした。
子犬のワルツを選ぶあたりのだめの心境が手に取るようにわかって千秋は最後の曲をトロイメライと予測します。
こんな未来が来るだなんていったいあの頃の誰が想像できたでしょうか。
日本から離れフランスでも二人は共に生活をしています。
最近流れに伴ってとうとう部屋が1つになりましたが違和感という違和感はなく、ただきれいで調和されたその部屋にカズオの人形とか、ピアノ譜とか、少しずつ色味がついてきたことは事実。のだめの荷物はちゃんと部屋に息づきました。
新譜をさらうのだめは眉を寄せて楽譜にかじりついています。
千秋ははぁ、とため息をつきました。

■千秋がバスルームから出ると、のだめが髪をぬらしたままピアノ椅子に座っていました。そして新しい曲の楽譜を眺めていました。
「のだめっ!」
はいっ?!素っ頓狂な声で返事をしたのだめに、バスタオルを覆いかぶせ千秋は頭をぐしゃぐしゃをかき混ぜます。血管をふつふつと煮えたぎらせ千秋が怒ります。
「お前はまた髪乾かさない!風邪ひくつもりか!ばか」
「はぅ~!先輩ひどぃ~!」
コードを引っ張り千秋はのだめの手を引きました。のだめはととと、と千秋についてきてすとんとソファに納まります。よろけた小さな体躯を千秋がふと心細く感じました。
「またそんなことやったら本当に怒るぞ」
目力を利かせ声を低くして言えばのだめがヒィと小さく悲鳴をあげて震えます。
「い・・・いまのは怒ってるんじゃ」
ぶつぶつというこえは無視されました。のだめは
「わ・・わかりまシタ!分かりました次は必ず」
ぎろ、という目でにらまれ目を逸らしました。もう一人の問題ではないのだからのだめに責任が伴うことは必然、それを千秋はのだめが本当にわかっているのか不安なのです。
「おまえちゃんと食ってる?」
先ほどと全く違う声音で千秋が言うのでのだめも少し驚きました。
「食ってマスよ先輩が一番よく知ってるでしょう?」
確かに千秋はよく知っていました、のだめはびっくりするくらいよく食べるので。
「何で太らないんだ?」
ポツリと漏らした言葉はドライヤーの音に消されていきます。のだめの体の中でうまく一人以上の養分は分割されその役目を果たしているのか。千秋にはその細い体躯が不安でした。その事実があっても前と変わることのない幼さ、強いて言えば無茶をしなくなったような気がしますがこんなふうに髪を乾かさなかったり気が利かないのです。
かつて昔、出会ったばかりの頃にやったトリミングをしながらのだめは満足する猫のように目をつぶりました。栗色の髪から水分が飛ばされふわふわという感触に変わっていきます。
「俺だって常にここにいれるわけじゃないんだから」
その言葉は伝わったようでのだめのからだが少し緊張しました。
そうですね、と静かな声が返事をします。のだめも千秋の言いたいことが伝わったみたいでただ黙っていました。ドライヤーの音だけが続く奇妙な間がありました。

■ハイ終わり、そういって千秋がカチリとスイッチを切る音が聞こえ、かちゃかちゃというコードを巻く音とかがありました。
のだめが後ろを振り返ります。至近距離のそののだめの顔が奇妙に歪んでいて千秋はどうした、とぽんぽん頭を叩きました。それはきっとのだめにも共通の不安だったのかもしれないな、と漠然と千秋がそう思っていると、胸板にのだめが顔を押し付けました。
くぐもった声が体に振動して伝わってきました。
「のだめ・・・だいじょぶでしょうか」
「お前がダメでも俺がいる」
のだめがくつくつと笑いました。それフォローになってません、とのだめが言いました。
「なんとかなる」
千秋が言うと、のだめが顔を上げました。睫毛が揺れていました。
「千秋先輩にしては珍しいお言葉デス」
そして綺麗に笑うと、千秋も笑んでその額に頬をくっつけます。
のだめも不安なら二人で不安になるよりも励ましあう方が。
そう思ってぎゅ、とのだめを抱きしめました。
なにしろ今ここにある命はしっかり着実にと息づいていますから。

■「そういえば洋子が」
ベットの中からもぞ、とのだめが顔を出し言いました。
「新しいワンピース送ってくれたんです、ピンクの」
ふうん、と気のないような返事を千秋はしましたがちゃんと聞いていることをのだめは知っていました。
「あと新しい食器とかタオルケットとか・・・」
のだめたちでも買わなきゃですよね、と呟くのだめに千秋が手を伸ばし引き寄せました。腕の中にすっぽりとおさまってしまってからのだめは言います。
「それでそのワンピースっていうのがちゃんとふわふわでゆるゆるしててどんな体型でもいけるんですよ」
「お義母さん器用、なのに部屋の片付けは出来ない。お前に似て」
お前は器用じゃないけど、といたずらっぽく付け加えます。そんなぁ、と悲劇的な声をのだめが出しました。千秋はゆるゆると目を閉じて言います。
「抱き枕みたい」
「ひどいデス!人間なのに」
憤慨したのだめがすこし抵抗して身をよじりましたがそれは緩やかな抵抗でした。そしてふと手を伸ばしました。
千秋の頬に触れるとぼんやりと千秋は目を開いて何?と問います。
「この子は」
夜の闇の中では薄明かりがぼんやりと光っているだけでした。
「・・・いいえ、なんでもないです」
千秋が何だよ、と言ってまた目を閉じました。千秋がおもむろに口を開きました。
「男かな、女かな」
「えっと、両方欲しいです」
「お前今からそんなこと言っていいの、じゃあ覚悟しろよ」
「それは真一くんの技量によるんじゃないんですか」
「何古典的なこといってんの、体位の話?」
「まあ真一くんいやらしい」
「おまえだろ」
会話のわりに二人の間には穏やかな時間が流れていました。温かな相手の体温を感じながらうとうとと眠りの世界へ引きずり込まれます。
千秋はぼんやりと人肌のすばらしさについて思い、のだめはぼんやりと性別について思いました。そしてふたりで子供の夢を見ました。

おわり
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by kanae-r | 2005-04-30 00:55 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)