当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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長谷津、4月

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勇利はあっけに取られてしまった。何しろ、四月の長谷津に雪が降るなんて、滅多にないことだったから。長谷津の駅は思ったよりも、変化がなくて勇利は不思議な気持ちになる。
世界選手権が終わって、東京で一通りテレビに出たり取材に応じているうちに、思ったよりも時間がかかってしまった。実家に戻るのはほんとうに久しぶりだった。勇利の愛犬は今年亡くなってしまったと家族から聞いていた。凄く落ち込んだし、悲しかった。もっと早くに戻っていれば良かったと後悔した。

勇利が数年振りに実家の扉を開くと、犬が一匹いて、ユウリにおかえり、とばかりにワン!と吠えた。あれ、彼は死んでしまったはずでは、と勇利は混乱した。勇利、おかえり、ゔぃっちゃんに似とらすやろ。お客さんの犬だね、マッカチンちゃんだよ。マッカチン…マッカチン?!何処かで聞いた名前だ。耳にタコが出来るくらい。ここ数年、勇利のまわりをちょろちょろとしていた、あの青年。
「母さん…そのお客さんって…」
「ユウリ!!遅いよ〜待ちくたびれたよ!」
勇利の実家は温泉だった。ゆーとぴあかつき、館内着に刺繍されたそれを確かに見ながら、背の高い男が勇利に抱きついてきた。

「ヴィクトル?!何してんの?」
ユウリが誘ってくれたんじゃん、実家がハセツの温泉だってさ、とヴィクトルは口を尖らせた。確かに、確かにユウリはその話をした。ちょうど今年の世界選手権が終わったあとで、いつかおいで、とも言った。大人の社交辞令だ。まさか本当に来るとは。しかも、犬?どうして?!

ユウリ、俺のコーチになってよ。Be my coach!YURI!!
な、何をこの大人は言っているんだ?勇利は混乱した。
「無理だよ、ヴィクトル。僕まだ引退しないってあれだけ世界選手権で話してあげたよね?」
ユウリなら出来るよ!リビングレジェンドだもの!抱きしめて!と目の前の男はにっこり笑った。君の犬の方がまだ利口だよ、ヴィクトル。
ヴィクトルはその後もことある事に勇利にお願いをしてきて、結局長期間の滞在を計画していたように勇利の部屋の隣の使ってない宴会場に沢山の荷物を空輸してきていた。こいつは本気だ。勇利はあっけにとられた。
可愛らしくお願いすればなんでも、聞いてもらえると思ってるのか?確かに彼は小さい頃から妖精のようだったし、大人になってからは美しい色気をばら撒いている。
ゆーとぴあかつきの館内着をこれほどまで着こなす外国人を勇利は知らない。

久しぶりに入った自分の部屋は、高校の時のままで、何も変わっていなかった。ユウリの部屋何もないね、ヴィクトルは当たり前のように勇利の背中にべったりと張り付いていた。デトロイトから段ボールがいくつか到着していて、勇利の持つものは、お仕舞いだ。
「デトロイトに住んでた時の荷物は?まだ部屋引き払ってないの?」
勇利は足元の段ボールを指差すと、ヴィクトルはええ?!と大袈裟に驚いた。これだけ?!
「君たちロシアの選手と違って、僕らはお金が無いからね。全部処分した方が安い」
ヴィクトルは、ううん、と考え込んだ。ねえユウリ、やっぱり俺がユウリのコーチになるよ。WHAT?!
彼は腕を組んで、勇利を見て笑った。ユウリに沢山のLifeを教える!と。

彼は二週間とちょっと、温泉と長谷津と九州を満喫し、丁重にロシアへ送り返された。ヤコフコーチから鬼のように電話が入っただけでなく、彼のホームリンクのスタッフが回収しにきたからだ。マッカチンの検疫には間に合わなかった。ユウリ、お願いだからね、コーチしに来てね。ヴィクトルの目は本気だった。以前彼のLifeについて聞いたことがある。殆どは愛犬のことだった。マッカチン。彼の大切な相棒。彼をここに置いていく位?彼は本気?何処まで?

「君の飼い主はいったいなんなんだ?」ガランとした部屋の中で、すっかり勇利に慣れたスタンダードプードルが尻尾を揺らして同意した。ヤコフコーチとヴィクトルからそれぞれメールが入っている。ヤコフコーチは僕がチェレスティーノの契約を解除してしまったことを知ったらしい。ヤコフコーチからの提案に勇利は頭をマッカチンに埋めた。ふわふわだ。ヴィクトルの方も、殆ど同じ内容だった。コーチは諦めるから、振付をしてくれと。
何なんだあの自分勝手な男は。何でも自分の思い通りにしなければ気が済まないのか?
勇利は何処か、懐かしい感じを覚えていた。ロシアに来いと?サンクトペテルブルク。行ったことのない土地の筈なのに、勇利は何だか懐かしい。サンクトペテルブルク、セントピーターズバーグ。ちがう、彼はこう呼ぶ。ペーテル。my Витенька。



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by kanae-r | 2017-01-22 12:12 | YURI ON ICE | Comments(0)