当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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サンクトペテルブルク、5月

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ヴィクトルは心配だった。相当酷い誘い方で、何より大切なマッカチンを利用するようなやり方で、ユウリを無理やりロシアに連れて来てしまった。
新緑の季節がようやくサンクトペテルブルクにもやってきて、柔らかな緑の中で、ユウリを迎えたとき、ヴィクトルはまるで、夢でも見てるようだった。
ユウリは怒ってるだろう、そう思ったヴィクトルだったけれど、彼が空港におりだったときには、もうどこか決意したような、柔らかな微笑みであったので、ほっとしてヴィクトルは少し泣きそうになってしまった。
ユウリは一ヶ月の間、と期間を設けて、ヴィクトルの振付を作るまでの間、リンクの近くにフラットを借りた。やはりユウリはヴィクトルのやり方が相当乱暴だといって、最初は本気で怒っていたけど、何度も何度もヴィクトルが心からの謝罪と、己が本気であることを伝えて、懇願するように説得するうちに、彼は最後には呆れたように笑って、仕方ないなあ、出世払いだからね、と言って眦を柔らかく下げて微笑んだ。手続きが大変だったんだから、とぶつぶつ呟きながら梱包されていた荷物を解いていくその背中に、うれしくなって何度もヴィクトルは抱きついた。
ヴィクトルはなんだかんだ理由をつけて、毎日一人用のフラットに転がり込んだ。そう、さらにもう一人と一匹が追加されて二人と一匹で暮らすには手狭なフラットに転がり込んだ。
だんだんと私物を増やしていって、まるでそこにいるのが当たり前だっていうくらいになるまでに、ユウリがヴィクトルを許したなと思うくらいには、お互いの距離が近くなっていったと思う。ヴィクトルはユウリのことが何でも知りたかったし、そのスケーティングの裏側、ユウリの中側に何があって、何を見て、何に感動しているのか、ゼロから100まで全てを知りたくてたまらなかった。
ユウリとのLifeで気づいたことがある。ユウリは朝が弱い。おはようねぼすけさん、と声を掛けると、誰かの愛称を呟いたり、キスを返してくれることがある。昔の恋人と勘違いしているの?ヴィクトルは悲しい気持ちでいっぱいだ。でもきっと、楽しい思い出で上書きすればいいのだ。おはようのキスとおやすみのキス、沢山のハグ。ユウリは最初驚いて、なんどもヴィクトルに怒ったけれど、だんだん怒るのがめんどくさくなって来たのか、そのうち何も言わずに許容するようになった。

「ヤコフコーチはどうしてヴィクトルのことをヴィーチャと呼ぶの?」
ある日ヴィクトルの過去のプログラムを見ながら、ヴィクトルの腕の中でユウリが呟いた。大会の映像だったから、キスアンドクライで説教大会になっている。彼はちゃんと律儀に約束を守ってくれた。ユウリカツキが俺のために振付を考えてくれている!奇跡のようなことだった。

ユウリはある日切り替えたようにきっぱりとヴィクトルに向き合って、そのきらきらしたブラックオニキスがヴィクトルを映した。
君のためのプログラムなんだから、君のことを知る必要がある。そのためにヴィクトルのことをいろいろ教えて?と可愛らしくお願いされて、ヴィクトルは死にそうだった。今死んでもいい。後悔しない。この一ヶ月間は一生の思い出になるだろう…。
子供の頃のこと、スケートをはじめてやったときのこと、故郷のこと、マッカチンのこと、好きな食べ物、飲み物、季節、色、そして大好きなユウリカツキのこと。目の前でうんうん、と柔らかくうなづいてくれるその大人に、ヴィクトルは舞い上がる気持ちだった。同様にリンクの上でも、ヴィクトルの出来るトリプル、クワド、ステップ、なんでもやらされた。ついでに沢山の課題も。ユウリは相当鬼だと思う。

「略称だよ。ヴィクトルだとヴィーチャ、大切な関係の人は、ヴィーチェニカ」
ユウリの視線が彷徨った。ユウリが声に出さずに何か口を動かした気がする。その言葉は?
「ユーリだったら、ユーリャ、ユーラチカだね」ね、ユーラチカ、とユウリを、からかってやろうとヴィクトルはそんなことを言ってしまった。
ユウリが、また何かを呟いた。my Витенька、彼はそう言わなかったか?
ユウリがいきなり立ち上がって、キッチンに向かってしまった。軽々しくその名前で呼ばないで、と確かにユウリはそう言い放って。

NET!!またやってしまった!!涙が出そうになって、唇を噛み締めていると、慰めるようにマッカチンが体をすり寄せてくれた。ああ、だって、地雷が何処にあるのかわからないんだもの。
「ユウリ、ごめんね、怒らないで」
眦から涙がこぼれそうだったけれど、ぐっと飲み込んで、キッチンにユウリを追いかける。清廉な柔らかそうな白いシャツが春の陽気でまぶしく感じる。ユウリの俯いた顔に少し前にあった時よりも、伸びただろう前髪が掛かって表情は見えない。手元の作業をひと段落させると、顔をあげて、彼ははにかむように笑って、ふたりぶんのカップをヴィクトルに差し出した。怒ってないよ、びっくりしただけ。
俺の好きな茶葉の匂い。どうしてこんなにこの大人は素敵なんだろう。


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by kanae-r | 2017-01-22 13:41 | YURI ON ICE | Comments(0)