当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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長谷津、8月

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彼はLoveとその感情を名付けたが、未だに僕はその感情に名前を付けられないでいる。その感情に名前を付けてしまえば、決定的に違えてしまう可能性もあった。ぼくは狡い大人だ。彼のその純粋な感情を正面からは受け入れずに、回りくどく回避して、名前を付けずにはぐらかす。かつて抱いていたあの感情と、今のこの気持ちが似ているようで、でも悔しくて同じにはしたくない、ただの子供らしい我儘かもしれない。
それをあえて愛と名付けるのであれば、兄弟間、家族愛、師弟愛、友愛、たとえようはいろいろあるだろう。どれか当てはまるものがあるのだろうか。果たして正しい感情だろうか。全てが異なっているようで、当てはまるような気もする。
日々のきらきらとした色彩を作り出してくれた、まぶたの裏にかつての愛しい誰かの面影があったのに、いまはそれを上書きするように、年下の可愛らしい彼の姿が思い浮かんでしまう。
僕に色彩を与えた人。おどろきを与えた人。笑顔と幸せをくれた人。おぼれそうなトラウマの中で、光明を見出してくれた人。
夜から朝になる瞬間のような、薄水色の瞳がきらきらと輝く。

かつて彼の文豪は、その外国の言葉を月が綺麗ですねと訳した。そう、その言葉を形にはめるのはむずかしい。形にはまっていなくなってもいい、と思う。
彼が長谷津から帰ったあと、まるですべての色彩が無くなったかのように勇利は感じた。今までと同じ練習内容、変わらない日常。何が違うのだ?彼がいないのだ。
勇利にとって彼は探していたピースのようだった。欠けていた何かが戻ってきたと思った。触れられる度に、熱を持って。彼の好意がひしひしと痛かった。だけど彼が、一時の若者らしい熱でもって勇利に触れているだけだったら?いつか勘違いだった、と言って勇利から離れていったら?きっと自分は耐えられない。
彼は若く、世界を知らない。純粋な無垢な子供のようだ。だからこそ憧れを恋愛と勘違いさせて、何かに昇華できないままでいる。
いつかこの熱はさめる。夏から秋へ、気温が溶けていくように。
夜から朝へ、星々の瞬きが消えていくように。
いつかかれの夢がさめたとき、彼が自らかけ間違えたボタンを、元に戻せるように。与えてはいけないし奪ってもいけない。ゆるやかにゆるやかに殺していけばいい。

距離が近くなればなるほど、離れた時につらいから、勇利は心のシャッターを閉めてしまう。彼を見守るだけにしよう。心の奥底の、こんな気持ちは閉じ込めておこう。君はまだ若く、正しい輝きを目指していくべきだ。恋人を作り、家庭を持ち、子供を持つのだ。
僕の、ヴィーチェニカ。あなたのいる場所はここではないけど、羽根を休めるために一時でも安らぎを感じてくれるなら。

今夜は星が綺麗だよ、そう彼が隣にいたら伝えたい。綺麗なものを彼にたくさん見せたいと思った。カルデラの上の草はらで、霧の中で、夏の夜の海で、火花の中で、きらきらと輝く瞳が美しくて、なんどもなんども見とれてしまった。
言葉にして形にはめるのはむずかしい。言葉にしなくても彼が何か感じてくれればいい。綺麗なもの、楽しいこと、美しいもの、美味しいもの、彼の世界が広がるように。
何か考え過ぎてしまうときには、こうして身体を動かしたくなる。足を動かし呼吸し筋肉を確認する。八月の浜の風はぬるく、穏やかな夜の海が遠くまで続いている。朝はまだ遠い先にある。


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by kanae-r | 2017-01-22 15:02 | YURI ON ICE | Comments(0)