当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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バンクーバー、6月

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ほっそりと姿勢の良い-ヴィクトルにとっては見慣れた姿が掌をひらりと振った。
ユウリ!と思わず駆け寄ってハグをする。大好きなユウリの匂い。頬にキスの挨拶、会いたかったよ、と柔らかい声がこたえてくれる。
「フライトはどうだった?」ぐっすりだったよ、と勇利の肩を抱いて歩きだす。柔らかなコットンシャツにブラックのパンツ。 春から初夏に向かおうとしているバンクーバーにぴったりだった。
空港まで迎えにきてくれたユウリの車は車高が高くて、ちょっとした、オフロードも走れそうなもの。彼は一月前からこちらにきて、コーチのジョブオファーを受けていた。
振付師と演出家としての仕事だけでも充分だと思うのに、よくよく話を聞いてみると彼の故郷における選手の待遇の話になった。俺のいたロシアとは違い、国からの保障は一切ないといっても過言ではない。後進のために彼は祖国の選手からあまりお金を取りたくないらしく、別の収入を得る手立てを探していたらしい。
しっかりした年上の恋人の話を聞いて俺は感動してしまったのだった。なんて素敵なんだ!

フライトの間、ほんとうにぐっすり寝ていた。なにしろ競技者としての引退をするというだけで煩雑な書類を片付けたりセレモニーに参加したりせねばならず、それに加えてアイスショーにも沢山出た。世界選手権が終わったら今までの分、ゆっくりするんだ、なんて幻想は何処かに飛んで行ってしまった。エージェントから手渡された予定にはこの先三年分の予定は入っていたと思う。確かに、いままで国から食べさせてもらっていたわけだから、働かなければ行けないのはわかるんだけど。

ユウリにそんなこの一か月の愚痴をこぼすと、愉快そうにからからと笑った。彼も引退したあとは同じような状況だったらしい。与えられた予定をこなすだけで季節が変わってたって。

冬の終わりにロシアで、ユウリからカナダに拠点を移したい、と聞いた時には最初は悲しくて泣いて反対してしまった。
せっかくそばにいてくれると思ったのに!でも彼がこうやってチャンスを得て、さらに後進のために、という話をした時に、きっと彼は俺には見えてない未来が見えてると思った。ユウリは俺にとっていつも半歩先にいて、刺激をくれる人だったから。ユウリが発った後、フラットで俺は愕然とした。この空間は彼と一緒に過ごした五年間が色濃く残っている。最初俺は料理なんてしなかったけれど、彼と一緒に揃えたいろんな道具も、ラグもソファもベッドも。耐えられるだろうか?

今回の滞在はアイスショーのためにトロントへ向かう前のトランジットと予定を合わせた。ユウリの新しい家を見てみたいし、何より彼の傍にいて、同じ空気を吸って、思う存分甘えたかった。
彼は郊外に中古の一軒家を借りたといってヴィクトルを案内した。小ぶりな家、でも開放的なそこを俺は一目で気に入った。夏は川の風が吹いて気持ちよさそうだし、冬には暖炉で暖まる事だってできそうだった。ちょっと市街地から離れただけで家賃が同じくらいだったから、と彼はにっこり笑った。

ディナーは彼が最近見つけたらしいオイスターを食べに行った。
彼とフレンチにいって、美しいナイフとフォークの動きを見てるのもすきだけど、マナーも何もなくがぶりと豪快にかぶりつくユウリも大好きだ。おとならしくない、ペロリと赤い舌がのぞく。こういうところがこどもっぽくて可愛くて好き。
おなかがいっぱいになって、カナダワインはおいしくて、満足した。またユウリの家に戻ってシャワーを借りたあとは、ユウリの家の中を探検した。家具は前に住んでいた人が残していったらしい。温かみのある、使い込まれた家具は心地がよかった。部屋の中にはまるで、かつて彼が競技者であった形跡は一切なかった。ただのカナダ人がまるで住んでいるみたいに。
大会のものは、何も無いの?と聞くと、ユウリはあっけなく、ハセツに送っちゃった、と答えた。トロフィーも、メダルも、賞状も無くてガランとしてる。少し寂しくなる。まるで彼がなかったことにしてるみたいで。
彼があれだけ固執していた金色のメダルだって、今はニシゴオリ夫婦のところに飾ってあるらしい。彼の功績でハセツには彼のファンがたまに来たりして、それなりに地元に貢献しているのだ、と少し彼は恥ずかしそうにした。
あ、でもね、これは手元に残してある。彼はそういって、大切そうに、戸棚をがさごそすると、箱の中からまあるいものを取り出した。銀色、年号を確認して、ああこれは6年前のものだ。そう、俺がはじめて世界選手権で金を取ったときの。ユウリは恥ずかしそうに笑った。





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by kanae-r | 2017-01-23 19:07 | YURI ON ICE | Comments(0)