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当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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バンクーバー、7月

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リストをめくっていく。たくさんの可能性を秘めた小さなスケーターたちの名前がのっている。勇利は吐息を吐いて、背もたれに身を預けた。良かった、今年も十分な人材が集まりそうだ。
サマーキャンプはこのクラブの中での、勇利が始めた事業の一番目か二番目の功績だ、と先日オーナーは評価してくれた。予算の追加申請の許可と一緒に。このクラブは今や人材交流がさかんだ。外部の人間の出入りが多く、突然の来訪者やゲストのスケーターが居ても誰も驚かないし、滞在場所も練習環境も、申し分ない環境がいまや調えられた。若い選手がリンクに見学に来ているのをみて、勇利はこのためにやって来たのかもしれない、と改めて思う。滞在場所もトレーニング設備も食事環境も、若い選手に与えられるべきものは十分にある。それだけではなく、コーチングやスポーツ科学を学びたい選手の第二のライフを応援するための準備だってある。ブリティッシュコロンビア大学との事業連携も四期目になった。評判も、好調だ。順調に進んでいるときく。勇利はオーナーから今年呼び出しを受けて、今年はさらに新しいポストを得た。ありがたい話だ。後進のために道を作っているのだとやりがいを感じる。


地域と連携し、信頼を得る。中の人からも、外の人からも。バンクーバーのクラブの評判は徐々にあがっていったし、勇利は積極的にスポンサー回りをした。
東のトロントが伝統と言われたならば、西のバンクーバーは革新と呼ばれた。かつての紳士淑女のスポーツらしくトロントは高級クラブでもあり、閉鎖的な世界の中で一流選手がリラックスして滞在出来るのが売りだったので、それに比較してユーリプリセツキーのような彼が滞在するには、少し物足りないかもしれない、と勇利は内心危惧している。

リンクはただ一人のためのものではないので時間制だし、トレーニング器具だってそうだ。足りないものは外にも借りに行った。特にサマーキャンプの時期は毎回苦労した。年々規模が大きくなってしまったが、来年は人数を制限するか、より集中できる環境を探してバンクーバー以外での開催も検討しなければならないだろう。

ヴィクトルはロシアのシニアを除いて、バンクーバーのクラブではノービスとジュニアクラスの担当を受け持った。ヴィクトルは子どもが好きなようだった。自らも成長痛で苦しんだからか、ちいさな子供達や少年少女の身体の成長に合わせた練習プログラムや食事内容をかんがえたり、ひとりひとりに寄り添った指導内容が、彼らにも彼らの保護者にも好評だった。

モバイルにピチットチュラノンからのメッセージが入る。彼とは長い付き合いになる。今でも親友だし、それにいいアドバイザーだ。勇利とヴィクトルのプライベートを知っているのはスケーターの知り合いでは彼だけだし、(彼はその報告をしたときに本当に喜んだ!)かつてデトロイトで語った夢を実現し、タイの祖国にクラブを設立した。すごい労力だと思う。彼のクラウドファンディングの話やメディアや世間へのCSRの考え方に勇利はいつも勉強させられたし、勇利自身のバンクーバーの事業についても、彼は親身になって相談に乗ってくれた。
今月の下旬にピチットが家族と一緒にバンクーバーにバカンスに来るのだ。楽しみだ。彼の子供達は彼そっくりでつぶらな真っ黒な瞳で、愛嬌があって可愛らしかった。あとでヴィクトルにも教えてあげないと。
僕らのバケーションはどうしようか、夕食の時にでも彼に相談してみよう。そろそろ家に戻っているはずた。料理が好きな彼はきっと買い物をしている時間帯だろう。彼と一緒なら、きっとどこだって楽しいだろうけど。
良い週末を!勇利に声を掛けて同僚が先に帰っていった。気付けばいい時間だった。
ヴィクトルは先に帰っているはずだった。

「見て!ユウリ!」
貰ったらしいワインを嬉しげに抱えている。流石ロシア人。出会ってすぐの頃は、アルコールなんか飲まない子供だったのに。今では先に潰れるのは勇利だ。馬鹿らしいような、愛おしいような、曖昧な気持ちを持て余して、ただいま、勇利は笑った。



by kanae-r | 2017-01-25 07:05 | YURI ON ICE