当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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アカディア、8月

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大西洋の海の果ては懐かしいロシアにも日本にも繋がるはずだったが、海が延々と続くばかり。見えるはずもない。
夜がまもなく訪れるように、宵の明星がまたたきはじめる。
しあわせだなあ、と愛しい人はいう。そうだね、とこたえる。
この海はサンクトペテルブルクにも長谷津にも似ていない。カモメもウミネコも飛んでない。

昔話をするつもりはもうないから、この話は墓まで持っていこうと思う。

かつて心のどこかで、誰かの影を追っていた。誰かは自分だけを見て、抱きしめてキスをしてくれた。御守りといって金色のまあるいものを右手にはめてくれた。誰よりもそばにいると約束をくれた。スケートが何よりも大切なもので、それ以外に何もいらないと思った。その人は銀色と青色と白で出来ていて、冬のような人で、背が高くて、子供らしくて、泣き顔が綺麗だった。自分は弱くて、追い詰められて、精神はぐらぐらで、その人に依存していた。

記憶のなかにある影にとても近い人が現れてからは、ますます強烈な違和感と、既視感にはさまれて、混乱した。馬鹿らしい。狂ってる。その人はいないのに。この世界のどこにも存在しない。誰かの記憶と勘違いしている?その名前で呼ばないで。その名前はあなたじゃなく、いや、あなただったかもしれない…

混乱の中で澱が積み重なるように、黒い思いも積み重なる。大切な思い出が遠くなってしまう。記憶の中の影にまた会いたい。僕だけを見て。約束の金色だよ。思い出に縋るたびに心がとざされていく気がする。目の前の銀色の人の存在がますます心を乱していく。彼は何かを勘違いしている?僕が勘違いをしている?これが間違いだったら?また終わりが来たら?

目の前の人は確かに愛しい。でもそれはかつての熱と違う。僕が欲しいのはその愛では無い。愛だけじゃなかったような気もする。日々の暮らしが幸せに満ちていた。手を繋いで。キスをして。愛しいヴィーチェニカ。その名前はあなたのものだった?僕が欲しいのは彼なのか?彼はどこにもいないのか?ずっと探しているのに。

春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来て、また春が来て、時間がたっていく。身体が限界を迎える。時間が経つのがこわい。いつか氷からおりなければいけないときがくる。僕は氷の上以外で生きていく価値はあるか?死んでしまった方がいっそいいのでは?

朝がくる、夜が来る、また朝が、夜が来る。時間が経つのがこわい。年をとるのも。無駄な時間を過ごすのがこわい。眠ってしまうのがこわい。
いつまでも氷の上にいれればいいのに。
眠れないままに夜が終わるのを待つ。窓の外の星空を何度も見上げるうちに星々の名前を覚えた。みちしるべのようなポラリス。みえにくいけれどたしかにそこにあるポラリスアウストラリス。長谷津、北京、モスクワ、バルセロナ、サンクトペテルブルク、いくつもの場所で、夜が来るたびに確かめる。

彼は僕をいつも混乱させる。出会う先々で、一緒に過ごす中で。彼は美しく、優しく、泣き虫で、愛らしい。愛おしい。時間が経つのがこわいのはもう一つ理由ができる。いま、めのまえにいる、彼との別れもいつかやってくる。
そう、彼との別れ。神様の影に似ている、でも全然違う。彼はあたたかく、僕にloveとlifeを教えた。

長い月日が積み重なって、でも気付けば目の前の人の愛しい人からもたくさんのものを、もらっていた。気づかないくらい積み重なって、溢れ出てしまう。それは黒いものではなくて、あたたかく、柔らかく、ふわふわしていたり、あまいものだったり、宝石のような、キラキラしたものもある。新しい記憶。新しい気待ち。新しい愛の形。新しい暮らしの形。大切だと思っていたこの金色は、そこまで大切なもの?神様のためでなく、自分のためにキスをしてもいいだろうか。
神様の影を追わなくても幸せは手に届く場所にあった。それに気づいた。
ぼくのかわいい人、まるで、ぼくをみちびくみちしるべのような星。引き寄せられて、いつか帰って来る場所。君がいれば僕はどこまでも前に進んでいけるし、間違えた時には戻って来ればいい。ふたりでいれば、なんだってできる気がする。氷を降りたとしても、もうこわいものはない。きみがいればそれだけで。

朝がくる、夜がくる、また朝が、夜が。
春、夏、秋、冬、はじめて季節に色がつく。春の雪解け、花のかおり、夏の日差し、深緑のにおい、秋のつめたい風、木の葉のこもれび、冬の白い吐息、ゆきの音。時間が経つのが愛おしい。一日一日は愛すべきもので、こわいものではない。また明日、が楽しみだ。おやすみ、またあした、よい夢を。





なあに考えてる?柔らかい声。彼はとなりで微笑んでいる。海からの風。彼の前髪が揺れている。
…あなたのことだよ。なるべく優しく伝わるように返す。
繋いだ手の温もりが愛しい。近くなったり、とおくなったり、ケンカしたり、仲直りしたり、同じものを見ていたり、違うものを見ていたり。
家族になるってこういうこと?だんだんと積み重ねて、何かが溢れてしまいそうだ。同じベクトルを向いていたり、違うベクトルを向いていたり。それでも何処かで交差する。僕と君とは他人だったけれど、いつしかこんなに近くにいる。それってすごく、素敵なことだ。

アヴェマリスステラ、どこかの教会からかこどもたちの歌が聞こえる。



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by kanae-r | 2017-01-28 09:53 | YURI ON ICE | Comments(0)