当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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"annunciation"

その日は別段何も無い普通の一日でしたが、一つだけいつもと違ったことがあるとすればそこにあまやかな空気が漂っているということでしょうか。
夕飯を済ませて一段落していつものようにピアノの音がリビングには響いていましたが食器を洗う水音がなくなってコーヒーの香りの漂う頃合にはピアノの音がなくなっていました。
背の高くてスラリとした黒髪の青年は少し変な気もしましたがそれほど不思議に思うことはなく、かわいらしいオレンジのマグカップにもコーヒーを注いで、自分の緑色のマグカップにもコーヒーを注ぎました。
音が無くなればそこには自分の足音だけ、両手に持って歩いてゆけばへなりとソファに倒れこんだ栗色の髪の女がいました。
うつ伏せになってその白のワンピースの裾が捲れているのを男はそれとなく直してやって、コーヒーいれたと言えば女が顔を少し上げてその栗色の瞳と黒の瞳が合いました。
ゆらゆらとその眼が揺れていたので男はふと不思議な心地が致しましたがそれは不快な物ではなく、この栗色の髪の女についての特異性を彼はよおく知っていましたのであえて構うことはせずローテーブルの上においてあった自分の楽譜を取り上げました。
ぽすとかわいらしい音をたて、その栗色の頭が再びソファに沈没しました。
自分でいれたコーヒーはいつもよりもうすめです。
ふと彼女を見やればこちらに顔が向いていたのでわしゃわしゃと髪の毛を撫でてやりましたらまるで犬のように目を細めてくすぐったそうに首をすくめています。
どうした、と聞けばよいのでしょうが何となく聞かないで男は黙っていました。
女も口を開こうとはせずにされるがままになって、それでもその瞳がゆらゆらと揺れているような気がしました。
そうっとその体を抱え起こして自分もソファに座り、よ、と掛け声付きで栗色の髪の女を膝の上に座らせてみたところ、どちらかと言えば不安そうな顔をして彼女は男を見ていました。
やはり瞳はゆらゆらと揺れています。
どちらかと言えば泣きそうな目だったので、男はそうっとその目を閉じさせてその瞼に唇を落としました。
女がそれに反応して赤くなったのでわしゃわしゃとその髪を撫でます。
彼女は目をゆるゆると開けましたがすこうしだけ目が緩んでいました。
そして安心したように息をゆるゆると吐いたかと思うとくしゃりと微笑みました。
その眦にもキスを落としてやればくすぐったそうな顔をして彼女はそのまま頬を青年の頬とくっつけてしまって、青年にはその頬の柔らかさが不思議で仕方ありませんでしたが首筋に唇を寄せるとふうわり、金木犀の香りがしたような気がします。
風呂に入ったんだな、とそんなことを思って、いいこいいこと子供を抱きしめるようにぎゅうと腕の中の女を抱きしめました。
真一くん
ささやいた声があまやかな、とめどない優しさに溢れていました。
真一と呼ばれた男はなぁに、というように腕の拘束を緩めて腕の中の女を見やります。
栗色の瞳はやはりゆるゆるしていました。
あの、ね
ようやく口を開いた彼女は、泣きそうな顔をしています。
白のワンピースからも、金木犀の匂いがしました。
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by kanae-r | 2005-10-20 19:52 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)