静かという音
2005年 12月 29日
一斉になりやんだ音の終末を、知ったる掌がその中におさめる。余韻という音が完全に消えてしまうまで少し、観客は動きを忘れ息することを忘れる。最後の音が消えて、静寂が生まれ、それは場をおさめる指揮者が、その腕を降ろすときまで続くのだ。息を忘れ瞬きを忘れた観客が、息をすることを許され瞬きを許される、そしてどこか現実でないようなそんな場所からホールという制限された空間に戻ってくる、手を引いてエスコートするのが彼ならばまた手を離すのも彼なのだ。
昨日自分にフランス料理を作っていた手が、昨日頭をはたいた手が、昨日優しく髪に触れた手が、今こうして5000ばかりの聴衆の手を離し70ばかりの楽団員の意識を離した。一人にしたら微かな溜め息が、ついた本人たちが驚くほど大きな、5000人の感嘆の声にならぬ息として、どよめきをつくり、それから割れんばかりの拍手になった。例外なく隣の老夫婦も、反対側の紳士も、前も後ろも立ち上がり口笛をならす。
何故かその波に乗り遅れたのだめが、確かに音楽を受けとめながらも、それが溢れ出さないようにと息を止めて静かに押さえつける。溢れてはもったいないような気がして、なぜならこの感覚をずっと残しておきたいからだとかすかに思う。堪えられないものがいくつか涙となって頬を流れ落ちた。それから誰にも負けない声で、ブラボー!と叫んだ。届いたのか届かなかったのか、彼は優雅に一礼する。
昨日自分にフランス料理を作っていた手が、昨日頭をはたいた手が、昨日優しく髪に触れた手が、今こうして5000ばかりの聴衆の手を離し70ばかりの楽団員の意識を離した。一人にしたら微かな溜め息が、ついた本人たちが驚くほど大きな、5000人の感嘆の声にならぬ息として、どよめきをつくり、それから割れんばかりの拍手になった。例外なく隣の老夫婦も、反対側の紳士も、前も後ろも立ち上がり口笛をならす。
何故かその波に乗り遅れたのだめが、確かに音楽を受けとめながらも、それが溢れ出さないようにと息を止めて静かに押さえつける。溢れてはもったいないような気がして、なぜならこの感覚をずっと残しておきたいからだとかすかに思う。堪えられないものがいくつか涙となって頬を流れ落ちた。それから誰にも負けない声で、ブラボー!と叫んだ。届いたのか届かなかったのか、彼は優雅に一礼する。
by kanae-r
| 2005-12-29 20:14
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