当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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オディール・マルコッティの話 11  「情景(2)」

*ACT.2



彼女が物心ついたとき、既に父親はこの世にいなかった。

父親がいないことが気にならないほど、母は愛情を注いでくれた。そして母と、同居していた伯父が父親みたいなもので、いつもお転婆をしては二人に心配されていた。

二人は太陽のようで、あかるくて、朗らかで、
近所の人達も、三人のちぐはぐな小さな家族に優しかった。

彼女が小さな頃は、身の回りに、たくさんの幸せにあふれていて、
父親がいない、ということは、彼女にとっては問題ではなかった。
大好きな人たちと一緒にいられることで、十分満足できるくらしが出来ていたのだった。
しかしどこか、母も兄も、イタリアというところがあまり、好きではないのではないか、と彼女は感じていた。
「日本に帰ろうか」
そんなことを、夜遅くに、ふたりが相談していたのを、聞いた覚えがある。



「パパンはイタリアーノだったの?」
小さい頃、彼女は母親に聞いた。なぜなら、彼女の顔立ちは、確かに東洋の顔立ちというには色素も薄く、
写真や雑誌で見るような、漆黒の黒い髪に陶磁のような白い肌、黒い瞳とはいえなかった。
「そうみたい」
母親は、いつも優しげに、彼女の栗色の髪を撫でた。
優しいジャポネーゼの母親のことが、彼女はとても好きだった。彼女はいつも、花のように、ふわふわとしていて、温かかった。
それでもいつも、パパンのことを聞くと、優しい彼女の顔が曇る。そしてそれは伯父についても同じだった。
その二人のこわばった顔をみて、幼心に、この話題についてはあまり触れてはいけないのだ、と感じた記憶がある。



11歳のとき、彼女は、先生の薦めで、踊ることが得意な子供たちが入る、伝統あるパリのスクールに入ることにした。
自分の人生は自分で選び取るのよ、と、ぽつりと母親が言っていたのがあったのかもしれないし、
イタリアという場所から離れてみたかったのもあった。

学校の試験と、練習と、寄宿舎での生活と、同世代の子供たちと練習を重ねながら、あわただしい毎日を送っているうちに、イタリアの親元を離れる寂しさを、忘れた。

11歳からの日々は、たくさん動いて、体もだんだん大きくなって、いつもおなかがすいていた記憶がある。



母親は彼女が大きくなるにつれて、徐々に体調を崩していったので、
そのうちに、日本に戻った。彼女もバカンスで寮が休みの間は日本に帰った。
伯父はそのままイタリアに残っていたので、よくフランスにも遊びにきて、彼女によくかまってくれた。



彼女はイタリアを離れる前、これはおまもり、と指輪をもらった。
何故だか欠けた指環で、聞けばこれは父親の形見だ、という。
不思議なデザインのそれは、他の人には見せてはいけないのだ、と
いつも首元からチェーンでぶら下がっていた。





++







「11代目」
呼ばれて青年が振り返る。
青年というよりも、まだ少年と言ったほうが良いかもしれない微妙な年齢。
黒いスーツは仕立てもよく、夏らしい軽やかな生地が風にたなびいている。それなりの格好をしていると、青年、という言葉が似合う。

「お待たせしました」
いいえ、と青年が応え、近づいてきた男と、その連れ合いの娘を目を細めて迎える。
「入江さん、また会えてなによりです」
青年の言葉に、こちらこそ、と男が応える。
「11代目、こちらは協力してくださるエルヴィーナ公」
「ミスターマルコッティ、お会い出来て光栄です」
女性の髪が、ふわりと風に舞った。
青年を取り巻いていた、大柄の黒服の男たちが、す、と距離を置く。

「アレーナ・ディ・ヴェローナは初めてなのです」
女公爵が言った。
「そうですか、夜風に当たる機会はあまりないでしょう」
女性はふわり、と微笑む。
「その心積もりでまいりましたの」

目配せをし、青年の近くにいた黒服の一群が、群集の中に溶け込んでいく。
群衆には知るよしもないことではあるが、今日はこの場で、もうひとつ、青年にとっての大きなディールがあるのだった。



++



徐々に夕闇が広がりつつある。
辺りは夕焼けの空色、キャンドルの明かりも灯る。
「ジーク」
彼女は呼ばれて、はい、と返事をした。
「うれしそうね」
彼女の名前を呼んだ友人が、手際よく衣装や小道具を配布する。
彼女にとっては、11歳のときに、イタリアの町を離れてから、久方ぶりの帰郷だった。
「今年のバカンスはイタリアでうれしいな、って」
「はいはい、ちゃんとお役目勤めてからね」



++




幕開け、したと同時に、円形劇場の地下では、大きなディールが始まった。
オディールの耳の中には、小型インカムから、報告が随時上がってくる。
「ミスターマルコッティ、ほら」
女公が上気した頬で、舞台の上を指す。踊り子の舞が始まっている。
「あまりはしゃぎすぎないように」
笑いながら入江が言う。
「お風邪をめされませんよう」
オディールが、一声かけると、側近の若い構成員が、ショールを準備する。上気した顔で、エルヴィーナがありがとう、という。構成員が、いいえ、と笑む。



会場の様子を一通り眺めていると、目の奥で、ちかりと、
何かが気になって、オディールがふと、舞台をみやる。




栗色の髪が目に入った。

ふわり、ふわりと宙に浮かび、まわる、その人間が目に入る。
何か、大きな動悸。焦燥に似ている。そして、これは非常にまずい感じな、個人的な事情であるような気がする。
目に焼きつく。
つくり、と心のどこかで直感する。
(先代?)
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by kanae-r | 2014-01-28 23:13 | odile>reborn | Comments(0)