当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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カテゴリ:ある家族の風景>nodame( 9 )

"annunciation"

その日は別段何も無い普通の一日でしたが、一つだけいつもと違ったことがあるとすればそこにあまやかな空気が漂っているということでしょうか。
夕飯を済ませて一段落していつものようにピアノの音がリビングには響いていましたが食器を洗う水音がなくなってコーヒーの香りの漂う頃合にはピアノの音がなくなっていました。
背の高くてスラリとした黒髪の青年は少し変な気もしましたがそれほど不思議に思うことはなく、かわいらしいオレンジのマグカップにもコーヒーを注いで、自分の緑色のマグカップにもコーヒーを注ぎました。
音が無くなればそこには自分の足音だけ、両手に持って歩いてゆけばへなりとソファに倒れこんだ栗色の髪の女がいました。
うつ伏せになってその白のワンピースの裾が捲れているのを男はそれとなく直してやって、コーヒーいれたと言えば女が顔を少し上げてその栗色の瞳と黒の瞳が合いました。
ゆらゆらとその眼が揺れていたので男はふと不思議な心地が致しましたがそれは不快な物ではなく、この栗色の髪の女についての特異性を彼はよおく知っていましたのであえて構うことはせずローテーブルの上においてあった自分の楽譜を取り上げました。
ぽすとかわいらしい音をたて、その栗色の頭が再びソファに沈没しました。
自分でいれたコーヒーはいつもよりもうすめです。
ふと彼女を見やればこちらに顔が向いていたのでわしゃわしゃと髪の毛を撫でてやりましたらまるで犬のように目を細めてくすぐったそうに首をすくめています。
どうした、と聞けばよいのでしょうが何となく聞かないで男は黙っていました。
女も口を開こうとはせずにされるがままになって、それでもその瞳がゆらゆらと揺れているような気がしました。
そうっとその体を抱え起こして自分もソファに座り、よ、と掛け声付きで栗色の髪の女を膝の上に座らせてみたところ、どちらかと言えば不安そうな顔をして彼女は男を見ていました。
やはり瞳はゆらゆらと揺れています。
どちらかと言えば泣きそうな目だったので、男はそうっとその目を閉じさせてその瞼に唇を落としました。
女がそれに反応して赤くなったのでわしゃわしゃとその髪を撫でます。
彼女は目をゆるゆると開けましたがすこうしだけ目が緩んでいました。
そして安心したように息をゆるゆると吐いたかと思うとくしゃりと微笑みました。
その眦にもキスを落としてやればくすぐったそうな顔をして彼女はそのまま頬を青年の頬とくっつけてしまって、青年にはその頬の柔らかさが不思議で仕方ありませんでしたが首筋に唇を寄せるとふうわり、金木犀の香りがしたような気がします。
風呂に入ったんだな、とそんなことを思って、いいこいいこと子供を抱きしめるようにぎゅうと腕の中の女を抱きしめました。
真一くん
ささやいた声があまやかな、とめどない優しさに溢れていました。
真一と呼ばれた男はなぁに、というように腕の拘束を緩めて腕の中の女を見やります。
栗色の瞳はやはりゆるゆるしていました。
あの、ね
ようやく口を開いた彼女は、泣きそうな顔をしています。
白のワンピースからも、金木犀の匂いがしました。
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by kanae-r | 2005-10-20 19:52 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

letter

n

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by kanae-r | 2005-10-09 22:51 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)
+

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by kanae-r | 2005-10-04 17:51 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

チキン

「もー!XXXXX!XXXXX!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・お前」
「なんだよーーもう僕やだー!」
「・・・・・・ねぇ、そんな言葉ドコで覚えたの?一体誰に?」
「・・・・・・なぁ、そんな言葉ドコの誰から教わったんだ?」
「・・・ミルヒーにアメリカのとき」
「殺しマス!」「殺す!」
「・・・あっお父さんお母さんどこ行くの?ねー」
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by kanae-r | 2005-05-03 21:58 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

NOW HERE (4)

■のだめは慎重にAの音を鳴らしました。440Hzの音の波が鼓膜を振動させます。
「お前、あれはなんなわけ?」
千秋がキッチンからのだめに尋ねました。あれと言われてその視線の先をたどるとそこにあったのは洋子の送ってきたダンボールです。
「ああ、洋子が送ってきてくれたんデス、今日さっき」
ふうん、と千秋は気の無いような返事をし、再び下を向いて食器を洗い始めます。
のだめはピアノを弾き、千秋は食器を洗う。毎食後のお決まりの役割です。
のだめは悪いなと思いつつもピアノを楽しく弾き、彼は彼でこのなんともいえない食後の時間が好きなのでした。
のだめが子犬のワルツを弾きはじめたので千秋は口の角を持ち上げます。誰かが見たら微笑しているように見えることでしょうが誰もそんな千秋の笑顔に気づく人はいませんでした。
子犬のワルツを選ぶあたりのだめの心境が手に取るようにわかって千秋は最後の曲をトロイメライと予測します。
こんな未来が来るだなんていったいあの頃の誰が想像できたでしょうか。
日本から離れフランスでも二人は共に生活をしています。
最近流れに伴ってとうとう部屋が1つになりましたが違和感という違和感はなく、ただきれいで調和されたその部屋にカズオの人形とか、ピアノ譜とか、少しずつ色味がついてきたことは事実。のだめの荷物はちゃんと部屋に息づきました。
新譜をさらうのだめは眉を寄せて楽譜にかじりついています。
千秋ははぁ、とため息をつきました。

■千秋がバスルームから出ると、のだめが髪をぬらしたままピアノ椅子に座っていました。そして新しい曲の楽譜を眺めていました。
「のだめっ!」
はいっ?!素っ頓狂な声で返事をしたのだめに、バスタオルを覆いかぶせ千秋は頭をぐしゃぐしゃをかき混ぜます。血管をふつふつと煮えたぎらせ千秋が怒ります。
「お前はまた髪乾かさない!風邪ひくつもりか!ばか」
「はぅ~!先輩ひどぃ~!」
コードを引っ張り千秋はのだめの手を引きました。のだめはととと、と千秋についてきてすとんとソファに納まります。よろけた小さな体躯を千秋がふと心細く感じました。
「またそんなことやったら本当に怒るぞ」
目力を利かせ声を低くして言えばのだめがヒィと小さく悲鳴をあげて震えます。
「い・・・いまのは怒ってるんじゃ」
ぶつぶつというこえは無視されました。のだめは
「わ・・わかりまシタ!分かりました次は必ず」
ぎろ、という目でにらまれ目を逸らしました。もう一人の問題ではないのだからのだめに責任が伴うことは必然、それを千秋はのだめが本当にわかっているのか不安なのです。
「おまえちゃんと食ってる?」
先ほどと全く違う声音で千秋が言うのでのだめも少し驚きました。
「食ってマスよ先輩が一番よく知ってるでしょう?」
確かに千秋はよく知っていました、のだめはびっくりするくらいよく食べるので。
「何で太らないんだ?」
ポツリと漏らした言葉はドライヤーの音に消されていきます。のだめの体の中でうまく一人以上の養分は分割されその役目を果たしているのか。千秋にはその細い体躯が不安でした。その事実があっても前と変わることのない幼さ、強いて言えば無茶をしなくなったような気がしますがこんなふうに髪を乾かさなかったり気が利かないのです。
かつて昔、出会ったばかりの頃にやったトリミングをしながらのだめは満足する猫のように目をつぶりました。栗色の髪から水分が飛ばされふわふわという感触に変わっていきます。
「俺だって常にここにいれるわけじゃないんだから」
その言葉は伝わったようでのだめのからだが少し緊張しました。
そうですね、と静かな声が返事をします。のだめも千秋の言いたいことが伝わったみたいでただ黙っていました。ドライヤーの音だけが続く奇妙な間がありました。

■ハイ終わり、そういって千秋がカチリとスイッチを切る音が聞こえ、かちゃかちゃというコードを巻く音とかがありました。
のだめが後ろを振り返ります。至近距離のそののだめの顔が奇妙に歪んでいて千秋はどうした、とぽんぽん頭を叩きました。それはきっとのだめにも共通の不安だったのかもしれないな、と漠然と千秋がそう思っていると、胸板にのだめが顔を押し付けました。
くぐもった声が体に振動して伝わってきました。
「のだめ・・・だいじょぶでしょうか」
「お前がダメでも俺がいる」
のだめがくつくつと笑いました。それフォローになってません、とのだめが言いました。
「なんとかなる」
千秋が言うと、のだめが顔を上げました。睫毛が揺れていました。
「千秋先輩にしては珍しいお言葉デス」
そして綺麗に笑うと、千秋も笑んでその額に頬をくっつけます。
のだめも不安なら二人で不安になるよりも励ましあう方が。
そう思ってぎゅ、とのだめを抱きしめました。
なにしろ今ここにある命はしっかり着実にと息づいていますから。

■「そういえば洋子が」
ベットの中からもぞ、とのだめが顔を出し言いました。
「新しいワンピース送ってくれたんです、ピンクの」
ふうん、と気のないような返事を千秋はしましたがちゃんと聞いていることをのだめは知っていました。
「あと新しい食器とかタオルケットとか・・・」
のだめたちでも買わなきゃですよね、と呟くのだめに千秋が手を伸ばし引き寄せました。腕の中にすっぽりとおさまってしまってからのだめは言います。
「それでそのワンピースっていうのがちゃんとふわふわでゆるゆるしててどんな体型でもいけるんですよ」
「お義母さん器用、なのに部屋の片付けは出来ない。お前に似て」
お前は器用じゃないけど、といたずらっぽく付け加えます。そんなぁ、と悲劇的な声をのだめが出しました。千秋はゆるゆると目を閉じて言います。
「抱き枕みたい」
「ひどいデス!人間なのに」
憤慨したのだめがすこし抵抗して身をよじりましたがそれは緩やかな抵抗でした。そしてふと手を伸ばしました。
千秋の頬に触れるとぼんやりと千秋は目を開いて何?と問います。
「この子は」
夜の闇の中では薄明かりがぼんやりと光っているだけでした。
「・・・いいえ、なんでもないです」
千秋が何だよ、と言ってまた目を閉じました。千秋がおもむろに口を開きました。
「男かな、女かな」
「えっと、両方欲しいです」
「お前今からそんなこと言っていいの、じゃあ覚悟しろよ」
「それは真一くんの技量によるんじゃないんですか」
「何古典的なこといってんの、体位の話?」
「まあ真一くんいやらしい」
「おまえだろ」
会話のわりに二人の間には穏やかな時間が流れていました。温かな相手の体温を感じながらうとうとと眠りの世界へ引きずり込まれます。
千秋はぼんやりと人肌のすばらしさについて思い、のだめはぼんやりと性別について思いました。そしてふたりで子供の夢を見ました。

おわり
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by kanae-r | 2005-04-30 00:55 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

NOW HERE (3)

■買い物袋をたくさんもった千秋とのだめは(とはいっても千秋が荷物をほとんど持っているのですが)のんびりゆったり家路についていました。さわりと揺れる街路樹には新緑の綺麗な黄緑がありました。
「きれいですねぇ」
千秋と同じことを思ったのかのだめは千秋にそういいました。
春は時間がゆっくり流れる季節なのでしょうか、それとも時間が午睡時だから?
かちゃりかちゃりという音は買い物袋の中からです。
「今頃もし日本なら・・・」
のだめがゆっくりと口にします。
「桜が咲いてる頃ですかね」
きっと桜が満開で、大学の近くの桜並木も綺麗なことでしょう。千秋は少しして言います。
「日本が良かった?」
のだめは口角を上げて返しました。
「いいえ、ダイジョブです」
その応えはなんとなく読みづらく、千秋はそうか、とだけ言いました。
のだめはのだめで外国の地に不安があるのだろうと千秋はなんとなく思っていました。
「あ、夕飯の買ってくんの忘れた」
「戻ります?」
「いいや、一回家に帰ってからで」
緩やかな道です。

■夕飯の買い物をしに行った千秋を見送り、のだめはなんとなく部屋を見渡しました。きれいに整えられた部屋は自分で維持できるとは思えませんでした。
手が寂しかったので、ピアノに触ります。
鍵盤は黒鍵も白鍵もしっくりと手にはまり込みました。
そのまま鍵盤に導かれるようにして一曲弾きます。
のだめがピアノを弾けば、そこには大意というものがいつもありました。それは『彼』の葛藤であったり挫折や苦しみ、哀しみであったり、色恋や情熱というものもありました。ピアノという媒体を使ってのだめはその『彼』らの事をなんとなく知ります。
それはすごく面白い、パズルを解き明かすような感覚でもありました。
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by kanae-r | 2005-04-27 02:44 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

toss



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by kanae-r | 2005-04-27 01:56 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

NOW HERE (2)

■通りには出店の出ている店もあったり、晴れた日にふさわしくオープンカフェがしんしゅつしているところもありました。白い壁に青塗りの古い看板のかかっているそのお店は、外向きのガラス窓から中が見えて、中にはきらりきらりとガラスが光っています。青、赤、透明、緑とさまざまです。中ではおじいさんが新聞を読んでいました。
「ねぇ先輩、ガラスは危険デスか?」
「・・・・そうだなぁ、でも別に高い棚においておいたりしとけばべつに平気な気もするけど・・・」
「そうデスよね!」
のだめの声がとても嬉しさいっぱいだったので、千秋はじっとガラス窓から中をのぞきました。
「あの、三組の?」
のだめはそうだよ、と精一杯目で答えました。千秋がそのしぐさがちょっとかわいいな、と思ったのは別の話です。
それはシンプルなコップにグラデーションが下のほうにかかっていってだんだん青になっているものと、ピンクと、黄色のコップでした。でもただのガラスのコップなんてその辺の雑貨やでもなんでもどこでも売っています。
「行くか」
「あー!先輩!待ってくだサイヨ!むぎー」
ちょっと強め、しいて言えば無理やりに千秋を引っ張りのだめはその素敵なお店へ入りました。春の陽気で店の中は暖かめの温度でしたが、涼しげなガラスを見ているだけで本当に涼しくなるような視覚的効果がありました。
「あのな。こういうのって・・・まあいいや」
ちょっとのだめに言おうとした千秋も、店の中でしかも一対一なのに変なことをわざわざ言うのも気が引けるのでめんどくさくなってやめました。ただ今日の買い物の目的はけしてガラスのコップではないことを付け加えておきます。
「これ!おじいさんこれ!」
三個落とさないようにレジまで持ってきたのだめに千秋が言いました。
「で、これもってくの大変じゃないか?」
「お買い物が終わるまでお預かりしておきましょうか」
柔らかな声のおじいさんが提案しました。そうですね!千秋が口を開く前にのだめが決めました。
ありがとうございました、ではのちほど・というおじいさんに見送られてのだめと千秋は本来の目的地へ向かおうとしています。

■一時間後、のだめはたくさんの袋を持った千秋の前をとたとた身軽に歩いていました。鼻歌交じりで思ったように買い物が出来て満足そうですが対して千秋は不機嫌極まりない顔をしています。でもけして自分の奥さんに持てと強制しないのでした。
「先輩よかったですネ!全部そろって・・・・これで安心デス!」
「その前に俺は座りたい」
「あっじゃああそこのカフェでいいじゃないデスかー、あそこの甘いケーキ知ってます?人間的じゃないんですヨ」
「甘いのかよ」
「いえいいんデスのだめ食べれますから」
ニコニコ笑ったのだめの顔に、千秋は脱力しました、それから優しい笑みを浮かべました。
「まあいいや、体力つけろよ」
でもそれはにやりとした笑みに変わります。
「太らない程度に」
「ムキ―!しっつれいな!」
石畳は灰色黒味がかった灰色、等間隔の整然としているその石畳の上にはらりはらりと春の気配が漂っています。とたとた歩くのだめのペースに千秋は合わせて歩いてゆきました。

■千秋はあきれた表情で目の前の女を見ていました。幸せそう、確かに幸せそうですが、もう少し落ち着いて食べたらいいのに、と思いました。何度も言いましたが一向にスピードの落ちる気配はなく、紅茶を飲んだ時とか、話そうと頑張っている時、それくらいしかスピードは落ちないのです。
のだめの目の前には、薄いクレープを何枚も何十枚も重ねたような、山のようなミルフィーユのような、不思議なケーキがありました。ナイフを使ってざっくざっく切り分けて、いいえ斬り込んでゆきます。その大きな形が完全な姿をあらわしたのは15分ほど前のはずですが、今はもうあらかた形は残っていません。
「なんか俺・・・・気持ち悪くなってきた」
「えっダイジョブですか?!」
「お前がそんな大きさの平らげるから・・・」
「のだめは全然気持ちわるくないですケド・・」
「ウソだろ?」
対して無視しながらごくりごくりとのだめは紅茶を飲み干しました。
ごちそうさまでした。
息を吐き出しながら満足そうにそういった顔は幸せそうです。千秋は信じられない、と言ったような顔をしました。千秋自身さっきエスプレッソを頼んだものの、すでに飲んでしまっています。
しばらくのんびりしてからのだめが言いました。
「そろそろ行きマスか?」
「そうだな」
そして二人は黒い椅子から立ち上がります。
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by kanae-r | 2005-04-24 23:51 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)

NOW HERE (1)

■さくらいろの、ほんわかとした色合いのそのワンピースをみて、のだめはほうとため息をつきました。そのため息がしあわせそうなさくらいろだったのにのだめは気づいていません。
「洋子も気が利く」
柔らかな素材に、ドレープが胸元に入って、すそには花が散っています。
空は快晴、空を泳いだら気持ちよさそうです。
薄い薄い雲は空高いところでするする流れています。大気のながれは風をまきおこしてフランスの、その華美でなくなんとなく品位のあるような、きれいなきれいな部屋まで春のにおいをつれてきました。
春風が吹き、調えられた部屋の、フローリングやピアノをなぜてのだめのところまで届きます。
栗色の髪がふわりと揺れてまたもとにもどるまで、のだめはそのワンピースを瞬きもせずじっとみていました。
それからふと笑って、(これは自分のために笑んだのではなく)丁寧にワンピースを畳み、日本から空を飛んでやってきたそのダンボールからタオルとか白いかわいらしい服とか、タオルケットや食器をだしては眺めていました。ダンボールが空になって、のだめはそれらを新しい棚へしまいます。
空は快晴、空を泳いでいる鳥は気持ちよさそうに歌っています。


■のだめは外へ出ようと水色のつるりとしたワンピースとボレロの上に薄手のベージュのコートをはおり、先が丸くてかわいらしいトゥの靴を選びました。この間新調したそれは白い色をしていてリボンがついていて、のだめが気に入ったものです。
鍵をかけて外へ出ると春の陽気な温かさがありましたが、風は少しだけ寒いような気がしました。自分の服を見て靴を見て、
「これならデートにぴったり」
なかなか満足な様子で階段をふんふんいいながら降りてゆきました。
向かいのおばさんや、なじみのパン屋にあいさつをすれば、
「どこいくのさ、おしゃれして」
と、人の反応も良好でのだめはニコニコして待ち合わせの場所へ向かいました。
春風はのだめのワンピースのすそをちらりちらりと弄びますがのだめは気にすることもなくとことこと歩いていきました。
街路樹には若草の色。新芽の季節と言うのは誰だって気持ちがいいものです。そう思う感情に国の差はないらしく、おじいさんとおばあさんがベンチでのんびりとお茶を飲んでいました。幸せそうな二人には和やかな空気がありました。
「いいですネ」
のだめはそうしてとことこ向かいます。



■ついた先は家から程近い繁華街というか、色々なお店が並んでいます。
通りの端のほう、小さなベンチがあります。日にあたって暖かそうなそこに全身黒い季節を無視した格好の、長身の男が座っていました。仕事帰りというか、スーツに鞄でなんというか仕事帰りです。機嫌の悪そうな顔に見えますが、のだめを見つけると少し目元が柔らかくなりました。
「千秋先輩」
とことこと歩いていけばよいしょといったふうに千秋は立ち上がりました。それから遅い、と一言言いましたが冷たい感じではありませんでした。
「遅くないですヨ、先輩が早かっただけデス」
「人のせいにするなって」
笑い含みに千秋は返します。人が見たら仕事帰り、でもその鞄の中にスコアや指揮棒が入っていることをのだめは知っています。A4でもありますし。
春の風は千秋にも吹きましたが黒のスーツをはたはたとさせただけで通り過ぎていきました。黒髪はさわさわとしましたがそれだけでした。光をまぶしそうに千秋は目を細めます。
「先輩季節感ゼロ」
のだめが笑い含みに言います。
「仕方ないだろちゃんとしたところだったんだから」
千秋が返します。
するりと、どちらからともなく手が繋がりました。
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by kanae-r | 2005-04-23 21:43 | ある家族の風景>nodame | Comments(0)