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当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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「真珠華」の物語






「好きなように、過ごされても良いと思いますよ」
獄寺の提案に、綱吉の目に柔らかい光が燈ったように感じられた。
久しぶりのその色。琥珀色の瞳に強くひきつけられる。

あの、中学生の頃のような。

綱吉が近い距離で、ふわりと笑む。
ますます美しく、気高い存在だけれど、脆く弱く守ってやりたいと思う。そのための提案だった。







獄寺の言質は取った。綱吉はそう自らの行いを正当化した。
綱吉が気づいたことには、メタメタになった精神を癒すには、運動するよりも、お酒に逃げるよりも、賭け事やディーノさんと派手に遊んだりするよりも、何より遠縁の元 後継者候補の声を聞くことが一番いいのだということだった。
日中は仕事をするし、夜は接待や夜会があり、その上沢山のお仕置き付き課題をこなして、オーバーワークになり、額から炎を出して発熱する。
赤い目をして身体じゅう傷だらけのその男は、もちろん綱吉を抱いてくれもするけれど、額をなでて貰って、小難しい話(彼はとても頭が良かったし、とってもロマンチストだ)を聞いているだけで、すうっと身体から熱が抜けた。

きっと波長が同じなのだ。炎の質はきっと真逆だ。
綱吉の熱い炎に対して、ザンザスの炎は冷たいとも感じる。前にそんな話をしたら、凍らされた話を蒸し返された。時効だろう、と言いたかったけど、かれの中の欠落した時間はもう戻らないので、心の中にとどめておいた。

もうひとつ、彼の声を聞くのは好きだが、彼の考えていることは直感では感じられなかった。最近になって冴えているとき、綱吉は大抵のことを直感でわかることができた。相手の動き、考え、未来、過去。冴えてるというかトんでることも多いのだが、ザンザスに対しては直感はぼんやりとしたものだけしか働かず、どちらかというと、感情の波を肌で感じることが出来た。
猫のようにまるまり、同じベッドにもぐりこんで、ぺたりとくっつくと、彼の感情が伝わってくる。
今日はいらいらしている。優しい気持ちである。懐かしいことがあった。腹が減っている。愛情が溢れている。悲しみに満ちている。怒りに満ちている。ザンザスの構成要素は殆ど怒りと破壊衝動だ。後は承認欲求のようなもの。あと食欲睡眠欲性欲。単純で明快。でも直感でわからない。何がどうして、他の人間とすこし、違うのか。

綱吉には宝物がある。
懐かしい並盛の故郷の思い出、京子ちゃん、母親、平和と平穏。かつて家庭教師に自白剤を盛られた時に、死ぬ気で守ろうと思った心の中の大切な宝物。海の中の貝殻のように、大切に殻を閉じて開かないようにしよう。綱吉は真珠を思い浮かべる。宝石は好きだ。もちろん真珠も。美しいもの。きらきらとまろく、海の中ので少しずつ成長しているなんて、なんて美しいのだろう。
そんなこんなこともあり綱吉は自白剤に対しての耐性を身につけた。自白剤だけでなく、殺しの手法も、正当防衛も、チートの方法も。ありとあらゆる生きるための手段を。





今夜も綱吉は男の元に向かった。自室を抜け出して、家庭教師と部下の目を盗んで、するりと重厚な扉の中に入り込む。ひょっとしたら家庭教師にはとっくに知られているかもしれないが、死ぬ気をこういう時にこそ使わずにいつ使うのだ。
男が就寝するために使う部屋は彼のベスターに似たフカフカした分厚いラグがひかれていて、綱吉の足音を完全に消す。
冬には暖炉に火が灯るのが綱吉は一番好きで、早くその部屋に来れた時には、男が部屋に戻る前にはぼんやりと炎を見つめて、ベスターの大きな体に埋まるのだ。
ふかふかもこもこは正義だ。

「うぜえ」
シャワーを浴びて、バスローブ一枚の男は言い放つ。
綱吉はにっこり笑う。琥珀色の瞳が燃えている。
自分の部屋があり、警備も相当なものなのに、何故かザンザスのボスはこうやって夜な夜なやってくる。頻度がますます、上がっているので、甘やかしすぎたかともザンザスは思う。最初は憐憫だった。あまりにサドの過ぎる変態家庭教師に、自分を負かした人間が弱っているのをみていらいらしたのだ。ザンザスのボンゴレは、もっと立派なボスでなければ困る。隙が無く、完璧で、強くなければ。こんな精神的に脆いのは困るのだ。

「酷くない?今日も疲れたよ」
甘えた声をだすので、思い切り蹴りつけてやった。うえ、と潰れた蛙のような声が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにする。
ベスターを呼び、バスローブを手近な椅子に落としてベッドのシーツの中に潜り込む。ライガーは上品に彼の側へ寄り添う。当たり前のように亜麻色の髪をした塊がシーツに潜り込んできた。するりと貧相な腕がザンザスの身体に巻きつく。
女の趣味で言えば、こんな子供はザンザスの趣味ではない。色気も何も無いし、グラマラスな要素もない。貧相な胸を馬鹿にすれば、真っ赤になって怒ったのが可笑しかった。
ザンザスは美しいものが好きだ。そしてそれは彼のボスも同様のようだ。
直感ではないが、なんと無くの感覚を共有することがある。楽しい。嬉しい。気持ちがいい。憎い。辛い。悲しい。血の繋がりなのか、その感覚の共有に気付いてから、ザンザスは興味深く、感覚の共有を楽しんでいる。特に人間の根本的な欲求にかかる感覚の共有は、手離しがたいものさえあった。セックスの相性は良い。
綱吉は気付いているのだろうか。あるいは一生気付かなくても良いとも思う。
適当に憎み合って、お互いに利用し合えば良い。ザンザスはボンゴレが欲しいし、綱吉は平穏が欲しい。綱吉は怠惰だ。流される。




男のコロンのトップノートをすん、と嗅ぎながら、綱吉はうっとりする。
額をなでられて、炎がじんわりと鎮まっていく。良いように利用してもらえればいい。求めないし、勝手にやる。お互いの需要と供給がマッチングすれば最高じゃないか。



by kanae-r | 2010-01-20 11:00 | Alf Laylah wa Laylah