ピーテル、7月
2017年 01月 23日
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勇利は隣にいる年下の可愛い人の薄い水色の瞳に、橙色が反射しているのに堪らなくなって、思わず手を伸ばした。なんて美しいのだろう。銀色の髪も、空色の瞳も、日の落ちる瞬間に染まる橙に映し出されて不思議な陰影をしている。
嬉しくて笑ってしまった。思わず手を伸ばした。
深夜だった。勇利とヴィクトルのフラットからはちゃんと空が見えるので、いまようやっと太陽は沈み、空に一瞬の橙色が広がったのだった。
この夏はたくさん夜更かしをしたと思う。白夜祭の間は沢山の催し物が開かれていて、ヴィクトルがいてもいなくてもマリインスキー劇場にはたくさん通ったし、美しい街並みに飽きる事は無かった。短い夏を謳歌しようと人々の表情は明るく、観光客もたくさんきていたし、毎日賑やかだった。練習を終えた後も陽が出ているのが勇利には新鮮だった。
オフの日には勇利の願いでヴィクトルにはタキシードを新調してもらい、二人でオペラもバレエも沢山観に行った。彼にお願いをしてサンクトペテルブルクを沢山案内してもらった。美しい彼を着飾らせるのは楽しかったから、沢山買い与えた。勇利はあまり自らの服装には頓着しなかったので、俺ばっかり!と彼は可愛らしく拗ねるものだから、勇利はますますにこにこ笑ってしまった。
フラットでは料理もした。彼は料理はからっきしだったけれど、リンクメイトから教えてもらったり便利なインターネットから学んで試行錯誤した。スヴョークラの色に驚き、ペリメニをみて餃子を連想し、小麦ではないライ麦のパンが新鮮で、コトレータの多様性に驚きもした。あまり料理をした事がないと言っていたにも関わらず、食べることも好きな本人が一番はまったようで、いつの間にか彼のレパートリーが増えていった。曰く料理はスケートと似ているらしい。
キッチンに立つ彼のシンプルな白の前掛が新鮮だった。その白のエプロンも、鍋や食器も、フラットは徐々に物が増えていくのが新鮮でもあった。
公園で、レストランで、劇場で、フラットで、くるくるかわる表情を見てると何だかこちらまで沢山の感情が湧き出てるくるようだった。
彼はスポンジのように見るもの体験するものを吸収して、体の中でスケートに昇華しているようだった。
窓際に立つ彼は眩しげに目を細めている。その睫毛さえ銀色だった。勇利の伸ばした手にヴィクトルは勇利の方を見遣って、キスしたいの?と問うてきた。掌で頬を包んで、勇利は緩く首を横に振って、じいっと虹彩を見つめる。夜の手前で光が乱反射している。ユウリの瞳が赤く見えるよ、マルーンだ、とヴィクトルはじいっと勇利の虹彩を見つめ返して、にっこり笑ってキスをくれた。
彼と作った今シーズンのプログラムは彼を勝たせるだろう。加点要素も構成も、状況に応じて対応していくこともできるだろうけど、常に限界を超えていかないと驚きも感動も生み出し得ない。
ほら、ヴィクトル、星が出てきたよ。一つ明るいのはなんだろう。
問えばわからないなぁ、と彼は答える。この時間なら恒星だろうか。
不思議な色だねユウリ。水色から夜に向かって暗くなるはずなのにオレンジ色に一瞬だけなるんだね。こんなにずうっと空を見たのははじめて。
毎日違う色になるよ、朝だってそうだよ。ずっとただ水色の時もあれば赤い朝焼けが見える時もある。
「ユウリはよく空をみていたの?」
問われた問いにそうだよ、とうなづいた。眠ってしまうのが勿体なくて。
この夏はすごくわくわくした。はじめて暮らす国、夏が短いから、みんな夜更しして、公園でたくさん日向ぼっこもした。もう来月には秋の気配がくるらしい。
夏は短く、秋の次には勇利の好きな冬がやってくる。
by kanae-r
| 2017-01-23 02:35
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