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当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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ピーテル、2月

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俺は腕の中の可愛らしい恋人の首筋に鼻を埋めた。ユウリのコロンの香り。ラストノートは甘いバニラのようだった。長時間のフライトのあとのアルコール、体が何処か疲れもあったけど、高揚感が優っている。
ユウリは兼ねてからのお願いどおり、金メダルを取ったおれにちゃんとキスをしてくれた。というかもともと金メダル以外にはキスをしないからね、と宣言されてた。なんてことだ!鬼!
そう、ユウリは鬼だった。僕が出来たんだからヴィクトルだって出来るよね?とにっこりわらい、そういうの僕は好きじゃないなぁ、美しくない、とまゆを細め、君はこんなものなのかい?人の想像のうえをいかないと感動なんか与えられないよ、と冷めた目でヴィクトルを追い込んだ。ヴィクトルは本気で何度か泣いた。本気で追い込まれて一皮どころか三皮も四皮もむけて真皮が露出しそうだった。
あまい蜜のような夏が終わり、秋から冬に向けて地獄を見て、待ちに待った冬はユウリがヤコフの下でサブコーチとしてヴィクトルの全部の試合に帯同してくれたおかげか、向かう所敵なしのシーズンだった。自己ベストもなんども更新したし、身体は軽くて、五回転くらいとべそうだった。
シーズンが始まる前、ユウリがお守りだから、といってヴィクトルの衣装に最後の手直しをしてくれた。キラキラと首元に金色の光。今年の衣装の一環だ、と言っていたけど、ユウリがこうして俺のためを思って衣服や衣装を整えてくれるのは、嬉しい。ぼくのヴィクトルが最も美しく魅力的に見えるようにね、とびっくりするくらい真剣に髪を整えたり、ストレッチやドレープの具合を確かめたりする。彼は意識していないだろうその距離に、ティーンのように何度もドキドキした。



彼のリンクメイトとヤコフコーチと、祝いの席をもうけてもらってたくさんお酒を飲んだ。ピーテルのふたりのフラットにもつれ込むように帰って来て、この頃めっきり年をとったマッカチンが、おかえり、といわんばかりにしっぽをパタリパタリと動かしている。
ユウリの全部をちょうだい、という言葉にユウリはまたたいて、言葉をしばらく噛み締めてから、返事の代わりにキスをよこした。滅多な時にしかしてもらえないユウリからのキス、じいんとからだが熱くなってしまって、彼はシャワーを浴びたいともごもごしていたけど無視した。ユウリの匂いが好きだから。あなたは清潔を通り越して時々潔癖が過ぎるよ。
ユウリは美しかった。人の話きかないね、と怒ったような言葉とは逆に目は笑っている。ごろんとユウリを押し倒すと白いシーツに黒い髪の毛が無造作に散らばる。室内灯の光をほのかにうるんだマルーンの瞳が乱反射している。嬉しくなって、たくさんのキスをからだじゅうにおとした。薄い腹にも、浮き上がる鎖骨にも、しなやかな脹脛にも。ようやっとあこがれていた人が、たしかに自分だけをみてくれている。ほかのだれでもなく、見えない影でもなく。
「俺のスケート、良かったでしょ?」
素晴らしかったよ、驚いた、最高に良かったし、わくわくした、とユウリは優しく答えてくれる。でもね、ユウリ、おれはまだまだあなたを驚かせられるよ。あなただって、滑りたくなったでしょう。脇腹にもキスをしたらくすぐったい、とユウリが笑った。
今この時死んでもいいくらいに幸せだった。そう伝えたら、僕は金色一つじゃ満足しないけどね、と冷たく言われて、おれはつい笑ってしまった。

この一年、プレッシャーを久しぶりに感じた。彼が側にいて、沢山のものを与えてもらった。自分が何と呼ばれているのかヴィクトルは知っている。世界からユウリカツキを奪った男。上等だ、と思った。結果を残せばいい事だ。だけれど、ユウリ自身が氷上に戻りたいのなら、話は別だろう。ユウリのスケートを愛しているのは何よりヴィクトルだった。いつか彼を世界に戻さないといけない、ともずっと思っていた。彼は自由に泳ぐべき人。みんなごめんね、ユウリカツキはもうすぐ世界に戻るから。
ヴィクトルはユウリの首筋に顔を埋めて、ラストノートの余韻を思い切り吸い込んだ。

by kanae-r | 2017-01-23 02:52 | YURI ON ICE