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当ブログsoireeは管理人kanaeによる雑多な二次創作を扱っております。苦手な方等はご容赦ください。


by kanae
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「えへへーたのしかったぁー」
赤い顔で何度も何度も繰返す彼女。酔いは相当回っているようだ。
ろれつが怪しいし、第一満足に歩けない。
よいしょ、とシングルベッドに横たえると、ふにゃり、とした笑顔を見せた。
「せんぱいーたのしかったー」
今日の演奏会のことを言っているのだろう。初めてのコンツェルト、同じ舞台にいつか、と言っていた夢が叶った、と大喜びしていたから。
もちろん千秋だってずっとずっとこの時を楽しみにしていた。自分の初めてのピアノコンツェルトは、シュトレーゼマンの世界公演の時。少し、とっておきたかったというのも事実だ。
彼女はふふ、と幸せそうに笑う。
「また、やりましょうネー すごいたのしかったデスー」
「うん」
のだめは手を伸ばし、千秋の首に巻きついてす、と引っ張る。千秋は重力に従ってのだめの横に落下した。至近距離では少し酒の匂いをさせて、紅潮した頬は幼さをかもしだすよう。
触れば、ふにという音がついてきそうな頬だなぁとおもう。
のだめがふにゃりと笑う。
「せんぱい だいすきー」
そのまま千秋の首もとに顔をうずめてしまう。きれいなうなじが見えた。
栗色の柔らかな髪の毛が顔に当たってくすぐったい。
やがて、すうすうという規則正しい寝息が聞こえた。
千秋がそうっと、彼女の肩に腕を回す。
「・・・うん」
ぎゅうと抱き寄せて、千秋はうっとりと目を閉じた。
「俺も」
# by kanae-r | 2004-12-31 02:00 | 言葉で綴る漆題-其の弐>nodame

 海の潮の匂いが、風が吹くたびに海から届く。
寄せては返す波音が遠くで聞こえる。
少し肌寒い一日になるでしょう、今朝方テレビの中で美人の天気予報士が言っていたのを思い出す。顔に当たる海風は確かに冷たかった。
先を歩くのだめの首から垂れるマフラーがひらひらと風にたなびいているのが、日の出のすぐ後、朝の空でとてもまぶしかった。薄青のそらの空気はひんやりと、そこに潮の匂いをはらませていた。
朝の散歩いきましょーというのだめの言葉についてきたのはなぜなのか千秋は甚だ疑問であったけれども、ひんやりと透明な朝の空気に触れると、どうでもいい気がしてきてしまった。
もうこんなことが何年目になるのだろう?
 ひょん、とのだめが防波堤に飛び乗って、バランスをとりながら歩きはじめる。
下から見上げたのだめの髪が、ふわりと風に乗って金色に見えた。
千秋は追いついて、隣で歩調を合わせる。前方には、カーブの先にきらきら光る水面。
前を向いていたのだめの顔がぱぁっと明るくなる。
―先輩!キレイデス!
―うん
本当だ、と千秋は笑みを浮かべた。朝の光が透けるようにのだめの顔を照らしている。

そのとき一陣強い風が吹いて。
ざぁーっという音と共に、ふぎゃという奇声が聞こえた。あ、嫌な予感。
―う、わ
予想通り、ふら、とこちらによろけたのだめを、肩の上で千秋がキャッチする。なんだこれ。スミマセン!という声は、背中の方から聞こえ。
―バカ、気をつけろよ。手、離すぞこのやろう
声に怒りを含ませて言うと、待って待って、とのだめが防波堤の上に姿勢を戻そうとする。千秋は腕に力を入れて、体制を戻してやった。まるで子供にしてやるように。
髪が顔にかかったままのだめがにっこり笑ってどうもと言った。毒気の抜かれる笑い方だ。
しょうがねぇなと手を差し出すと、のだめはまじまじとその手を見つめ、はにかむように笑って千秋の手をとった。そうして二人で歩き出す。
しばらくして、
―なんかこうやってずっと歩いていけたらいいですネ
ポツリとこぼすようにのだめが言ったので、千秋はくつりと笑う。
―なっ・・笑うことないじゃないデスか!
ふぎゃーとのだめが言うので、だってオマエ・・と千秋が笑う。
―意地悪!性悪男!
―いいすぎだろ
くだらない言いあいをしていても、しっかりと千秋の手はのだめを支えている。
海風は追い風となり、二人の背中を押した。
# by kanae-r | 2004-12-30 23:59 | 言葉で綴る漆題-其の弐>nodame
その日は秋のさなかの、穏やかな日差しの日だった。隣ではピアノの音がする。
千秋はスコアのチェックをしていて、無意識のうちにもその音は耳に入ってくる。
最近のだめは自立するようになった。ピアノに対して、正面から向き合い始めた。
千秋はそのことを素直に喜んだ。こいつは変わろうとしている。しかも自分から!でも、内心さびしいのも事実であって。
・・・・・・・さびしい?なにが?
千秋は眉間にしわを寄せた。
なめらかなピアノの優しい音はこちらの心中など知らず。
のだめが自由奔放にいて、楽しそうにピアノを弾いていること。それがいつもあることが安心だと?それこそ束縛になってしまう。のだめの可能性を奪う。
ふぅと息を吐いて、それこそ思考も一緒に吐き捨てようとした。今はまだ認めたくない「もの」の気配を背中のあたりがさわさわと察知している。
千秋はスコアのなかから湧き上がる音楽の方に集中しようとした。
低音の刻むリズム、弦の音の波が寄せてはかえす。トロンボーンとホルンは軽快に、トランペットがそれに応えて。

バーン!!

不協和音が大きく響き、千秋ははっと顔をあげた。ピアノの鍵盤に何かが当たった音だ。何か大きいもの――たとえば人のような。
すう、と血の気が引いていくのがわかった。ホタルのだめが走馬灯のように頭の中を駆け巡る。息が詰まってしまった。
――のだめ
あわてて立ち上がりドアを開け放しすぐ隣のドアへ――
「のだめ!?」


ふざけんじゃねぇどれだけこっちが寿命縮めたと思ってんだよあほのだめありえねえだろ普通に音楽院生のピアノがゴミで雪崩れるなんてありえねえ
口から出るままの暴言を吐くと、小さく、ごめんなさいと正座して千秋の前に座るのだめが言った。
ピアノの周りには散乱したダンボールの中身がぶちまかれている。
さっきの音はこの音。
心底からの深い深いため息が出て、心配して損した、と呟く。
「どこの音楽院生がっ!ごみの雪崩れでピアノが弾けなくなるんだ?」
「ゴミじゃありまセンこれはのだめの大事―」
「ゴミも同然だ!」
萎縮したのだめがとても小さい。下向き加減の伏せた目。まつげが影を落としている。
「いっぺん死んでみるか?」
「先輩顔が怖いデス・・・」
ひくひくと顔を痙攣させてのだめが言う。
千秋ははあ、とため息をついた。ああなんだかとても疲れた。いろいろと。
ずきずきと痛む頭をおさえながら、
「お前この部屋片付けない限りはうちに入れさせないから」
「ふぉ!?」
「晩メシもあるはずないよな」
「ふぉぉ!?」
先輩それだけは~!!と泣きつくのだめをあしらって千秋は部屋を出た。ドアを閉めると、ドタバタという音がし始めて、千秋は自分の部屋に戻る。
ソファにどっかとすわってスコアを手に取るも。
うう、と千秋はうめき声を出した。本当に何もなくてよかった、と安心している自分がいた。
・・・なにかあったらどうしよう、と本気で心配したのは事実。
そしてそれが冷めて今、こいつに何もなくてよかった、と大いなる安堵があったのも事実。
だってきっと、もしものことがあったら俺は。
その感情に千秋は少し驚く。違うだろ俺・・・今までは怒りしか覚えなかったのに。
「ああもう!」
スコアで顔を覆ってしまえば外界は帳の向こうのよう。喧騒も膜で覆われる。
やはり予感はしていたけれど。
ちくしょーと毒づいて、責めて逃げてきた隣のことを少し、想う。

ちくちくと心に刺さるはなんの感情か、認めたくなくて、時に冷たい態度でいることを千秋はわかっていた。
きっと、この想いをごまかすために、こうやっていつまでもじゃれてあしらっているしかないんだろうと。
いっそ絶望的に千秋は思った。
# by kanae-r | 2004-12-28 22:44 | 言葉で綴る漆題-其の弐>nodame

空白





ドアをあけて楽屋に入る。手を引いてのだめを招き入れれば素直にするりと入ってきた。
マジックで書いたぐるぐる模様が残っているのに、のだめは気にする様子もなく。
燕尾服を脱いでタイを外してしまうと開放感でいっぱいになった。成功した、という気持ちがやってきて、こいつ、という気持ちがやってきた。
見れば、のだめが自分をじっと見ていたことに気づいて、何見てるんだよ変態、と言い放つ。
先輩が入れてくれたんじゃないデスカ
のだめは頬を膨らませていう。ぐるぐる模様が書いてあることによって、あほさが増していることに気づいてはいないだろう。
くつくつ笑うと、さらに頬を膨らませた。
そして手を伸ばす。すぐそこにあった栗色の柔らかい髪に触れた。それから白い頬にも。
ほうけた顔が面白くてまたくつくつ笑うと、のだめは目だけでなんですか、と訴える。
指で触れると桜色のくちびるはふにふにしていた。
それからくちづけるとそれが柔らかくてこいつも一応女なんだなと思う。
しばらくしてのだめがふうと甘い息をはいた。
面白いので、もう一度くちづける。遠慮がちに、のだめがぎゅとシャツをつかんだ。
――ノックの音がした。
# by kanae-r | 2004-12-27 12:30 | ss>nodame

距離

私はどこまで行けるのでしょうか。私はずっとあなたを追っているから、時々その背中を見て思います。あなたとどこまでゆけるのかと。あなたは果てを知らぬようで、私も未だ果てを見たことはないけれども。そのいつの日にかのことを考えると背筋が寒いのです。果てはないかもしれないし、明日来るやも知れません。そうしたならどうするのでしょう。あなたはとても近くて遠いので、なおさら失うのが怖いのです。
# by kanae-r | 2004-12-16 00:10 | sss>nodame